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「日米ミサイル迎撃」大演習を嗤う(上) 排外主義のネオファッショ社会化

 「交通事故に遭う確率より低い」「人工衛星とミサイルは技術的には一緒」と言いながら、ミサイルが日本の上空を飛ぶとか、日本に「着弾」する恐れがあると決めつけて、恐怖心を煽り続けてきた日本の企業メディアに私は絶望している。日本は集団ヒステリー現象という言葉を超えた、排外主義的なネオファッショ社会になっている。

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)は、国際機関に3月12日に通知していた人工衛星「光明星2号」の打ち上げに成功したと公表した。朝鮮中央テレビは7日、同衛星の打ち上げの瞬間の映像を放映した。

 日本の新聞社の多くが「北朝鮮ミサイル発射」との大見出しで号外を配布した。電子号外は29紙で発行されたが、「飛翔体」という言葉を使った日経、福井、上毛の3紙を除いて、すべて「ミサイル」という表現を使った。

 朝日新聞は6日、リード記事で「長距離弾道ミサイル『テポドン2』の改良型と見られる機体を発射した」と報じた。

 「広辞苑」(第五版)によると、「ミサイル」は「(飛び道具の意)ロケットなどの推進装置を備えた軍用の飛翔体で、弾頭を装着し、各種の誘導装置を持つもの」であり、「ロケット」は「機体内に貯えた推進剤を燃焼させて高速度で噴出させ、その反作用として推力を得る装置」である。

 ミサイルに転用できるという理屈に立っても、外国メディアのように「ロケット」「ミサイル発射実験」とすべきではないか。

 自治体が政府の「エムネット」を受けて流した「北朝鮮がミサイルを発射しました」というアナウンスはデマだ。先端部に弾頭を付けた兵器を積んだミサイルを発射したとすれば戦争開始ではないか。

 ずっと「北のミサイル」と言い続けていたNHKは6日午後9時のニュースから「ミサイル」を削り「北朝鮮の発射」「発射問題」と言い換えた。米国発表の「衛星軌道進入に失敗」と言いたいために、「弾道ミサイル」を引っ込めたのだろう。

 政府は6日から「ミサイルも含む、あるいは衛星打ち上げのロケットも含む、飛翔体」と表現している。3月31日の衆参両院の決議も「飛翔体」と表現していた。

最も悪質な朝日新聞

 新聞各紙の中で朝日新聞が最も悪質だ。

 5日の「天声人語」は発射を「愚挙」と呼び、ミサイル発射は米国への脅威だと断定し、「下手なサーカスに頭上で空中ブランコをされるような不安は隠せない」などと書いた。6日の「天声人語」は秦の始皇帝の死をめぐる故事を引き合いに出して、「現代の独裁国家、北朝鮮」「異論は許さないと言わんばかりの、おなじみの自画自賛である」「後継問題に恐怖支配」「古代の絶対王制の国家に否応なく重なっていく」などと書いた。

 自衛隊がPAC3を配備した秋田・岩手両県の市民に「怖くないか」と聞いて談話をとっている。テレビは両県からの中継を繰り返し、保育園で「防空訓練」する園児たちを追った。保母がカーテンを閉めて「危険な液体が入ってきたら死んでしまう」とカメラに向かって話す。

絶対「正義」「悪」を対置

 今回、テレビに現職と元の自衛隊員が堂々と出演したことも忘れてはならない。武貞秀士・防衛省防衛研究所統括研究官と海上自衛隊の元海将で岡崎研究所の金田秀昭氏が「テポドン1号の時の護衛艦隊長だった」という触れ込みで、ひんぱんに出演した。

 金田氏は5日、NHKで「可能性としては人工衛星、と彼らは主張しているが、その可能性もあるし、全くそうではなくて、弾道ミサイルであったという可能性もまだ捨てきれない」とコメント。森本敏・拓殖大学大学院教授、志方俊之・帝京大教授もよく出ていた。

 NHKは4日午後0時17分、横尾泰輔アナウンサーが「政府は先ほど、北朝鮮から飛翔体が発射された模様だと発表した」と報道した。山口太一政治部記者が解説している途中、横尾氏が「今新しい情報が入った。先ほどの発射情報は誤探知という、誤った探知だという、官邸の危機管理センターからの情報が入った」と述べ、誤探知だったと伝えた。

 有事を想定して生まれた「エムネット」システムが初めて使われたのだが、世紀の大誤報となった。NHKなどメディアは自衛隊と官邸からの情報に関し、真偽をチェックせず、そのまま垂れ流した。「エムネット」は大本営発表のカタカナ語なのだ。

 元外務省職員の岡本行夫氏(外交評論家)は5日のNHK「日曜討論」で「発射されたのを認知できなかったというミスよりはずっといい。こういう誤認というのがあっても仕方がない。あまりにわれわれがそのことを大騒ぎしすぎて自衛隊はなっていない、なっていないと言って、自衛隊員が萎縮して、肝心のときに、この間の失敗があるからといって慎重になられるほうが大きなダメージじゃないか」と述べた。

 春名幹男・名古屋大学大学院教授は5日、テレビ朝日の「報道ステーション」で、「衛星打ち上げに失敗」と断定して、「今回の失敗は、北朝鮮の製品管理が全然ダメだということと、やはり、精密機械に関しては相当まで弱いということがはっきりした」などと語った。

 テレビ朝日系は打ち上げ前の3日「スーパーモーニング」で、「軍事ジャーナリスト」の恵谷治氏が「北朝鮮のようにお金のない国が同じ実験をするのであれば、人工衛星を打ち上げることによって、ミサイルも成功させるということは米国に届くミサイルが完成したと判断される。一石二鳥なんです」と解説した。

 「絶対的正義」と「絶対悪」を対置させる日本メディアの特異性がここにある。(浅野健一、同志社大学社会学部メディア学科教授)

[朝鮮新報 2009.4.10]