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ミサイル騒動 「危機」あおる日本、軍拡推進に向けた足場固め

 朝鮮の人工衛星打ち上げ(4月5日)を受けて、日本で軍備拡張を主張する論議が起こっている。とくに、政界では自民党を中心に「核武装」や「敵地攻撃能力」保有を検討すべきとの声が相次いで上がった。人工衛星を「ミサイル発射」と強弁し、国内に「安保危機」を醸成した日本はミサイル防衛(MD)のさらなる強化など軍拡路線に踏み出そうとしている。

敵地攻撃、核論議

 「ミサイル騒動」を絶好の機会とばかりに、軍拡勢力の強硬発言はおさまる気配がない。

 「光明星2号」打ち上げ直後の4月6日、自民党本部で開かれた「北朝鮮ミサイル問題に関する合同部会」で同党の山本一太参院議員は、「日本の敵地攻撃能力は自衛権(の範囲内)であれば憲法に違反しない。能力、要件を本気で議論することが抑止力を増す」と発言した。

 坂本剛二衆院議員も7日の党役員連絡会で、「北朝鮮に核開発をやめさせるまで、日本も『核を保有する』と言ってもいいのではないか」と述べた。

 6者会談不参加と自衛的核抑止力強化を明言した朝鮮外務省声明が発表(14日)された後も、中川昭一前財務相が19日、「純軍事的に言えば核に対抗できるのは核だというのは世界の常識だ」と述べ、日本として核武装を議論すべきとの考えを表明した。「核(武装)の論議と核を持つことはまったく別問題」と断ってはいるが、同氏は党政調会長を務めていた06年10月にも「憲法でも核保有は禁止されていない」と発言していることから、今回の発言の意図は明らかだ。

 対朝鮮強硬発言を繰り返す安倍晋三元首相も21日の講演で、「日米両国が協力を深めつつミサイル防衛を機能させるためには、集団的自衛権の行使や敵基地攻撃能力の保有について議論しないといけない」と述べた。

騒動のてん末

 「光明星2号」打ち上げをめぐる今回の「ミサイル騒動」。他国と比べても日本の強硬な対応は際立った。「茶番劇」ともいえる国内での騒動のてん末を見ると、日本の「ミサイル脅威」キャンペーンの異様さが浮き彫りになる。

 麻生首相は3月に入り、「北朝鮮による弾道ミサイル発射の兆候」があるとして、「自衛隊法上の対応はできる」と朝鮮側の発射物に対する「迎撃」を示唆。浜田防衛相も「迎撃対象は、なんであれ制御を失ってわが国に落下する可能性があるとすれば、人工衛星も含まれる」と述べた。

 朝鮮側が、衛星の打ち上げ計画を国際機関に通告した後も、「人工衛星と称しても国連安保理決議違反との政府の立場は変わらない」(麻生首相)と強調し、発射の場合は制裁を強化する立場を繰り返し表明した。

 日本政府は3月27日、運搬ロケットの落下物に対して自衛隊法に基づく「破壊措置命令」を発する方針を確認。日本への落下の危険性は非常に少ないとしつつも、「万が一に備える」と、大々的に社会の不安を煽り立てた。その後、PAC3ミサイルを東北や首都圏など5カ所に配備し、海上発射のSM3ミサイルを搭載したイージス艦を東(日本)海に展開するなど臨戦態勢を敷いた。

 また関係自治体のみならず、全国の自治体にも危機情報の伝達システムの構築を求めた。その結果、打ち上げ当日の5日には防災放送や広報車で空襲警報発令のような「ミサイル発射」の広報が行われた。

 一方、メディアも自衛隊部隊が各地をものものしく移動する光景を繰り返し報じるなど危機をあおった。

政権の人気取り

 日本は今回の騒動を機に、ミサイル防衛の拡大など軍事大国化を本格的に推進するための足場を固めようとしている。前述の政治家たちの発言もこのような流れに沿ったものだ。

 自衛隊を動員した臨戦体制を敷き「国家の危機」を演出した政府と、それを無批判に報じ続けたマスメディア。両者が「ミサイル騒動」をあおった狙いは何だったのか。

 朝鮮のメディアが指摘するように、そこにはいくつかの政治的意図が垣間見える。

 麻生首相は今回の騒動を国内の政治危機の解消に最大限活用した。国民の目を人工衛星打ち上げに向かせ国内の「安保危機」を醸成することで、政権の危機管理能力をアピールしようとした。安倍政権が支持率を高めるために利用した「北朝鮮バッシング」を麻生首相も切り札に使った。

 さらに、「北朝鮮の脅威」を口実にMDシステムの樹立と核武装の必要性を国民に宣伝し、それを積極的に推進しようとしている。今回の迎撃命令はMDの実戦運用に向けた予行演習的な性格も帯びた。

 米国の圧力で導入したMDシステムの構築には1兆円ものばく大な予算がかけられている。

 一方で、MDには技術面も含めた費用対効果、国内法および国際法上の問題点が指摘されている。今回も、「鉄砲の弾で鉄砲の弾を撃つようなもので、当たるわけがない」という鴻池祥肇官房副長官の発言が伝えられるなど、MDの実効性について否定的な意見は少なくない。

 「宝の持ち腐れ」になりつつあるMDへの国民的合意を取りつけるうえで、今回の騒動は防衛省などにとってまさに千載一遇の機会となった。

 5日、与党の「北朝鮮ミサイル問題対策本部」が発表した声明は、「弾道ミサイル防衛体制のさらなる整備に万全を尽くすべき」だと露骨にアピールしている。また、政府の宇宙開発戦略本部がまとめた「宇宙基本計画」の原案には、ミサイル発射を探知する早期警戒衛星の導入を検討する内容が盛り込まれた(4月22日、時事通信)。

 さらに、これまで拉致問題やエネルギー支援の不履行などで6者会談を妨げてきた日本にとって、今回の衛星打ち上げに乗じて6者会談を破たんさせ朝鮮半島の非核化プロセスを遅らせることは都合がよい。

 このような日本の動きに対して、海外からは懸念の声が上がっている。

 6日、ロシアで開催された討論会では、同国の朝鮮問題専門家らが日本の対応を「病的」「ヒステリック」と批判した。

 また、米国や南朝鮮、欧州の著名な研究者らによる「朝鮮半島問題を憂慮する学者同盟」も7日、過剰反応の自制を各国に求める声明を発表した。

 米シカゴ大学のブルース・カミングス教授や東京大学の和田春樹名誉教授ら70人が署名した声明は、日本の対応について「現在の危機を自国のミサイル防衛計画を進める好機にしようとしている」と指摘し、「ロケット発射への過剰対応は交渉をさらに難しくする」と批判した。(李相英記者)

[朝鮮新報 2009.4.28]