top_rogo.gif (16396 bytes)

〈危機幻想の本質を問う-下-〉 堅牢な軍産複合体に包まれたオバマ

武器輸出三原則の見直し主張する経団連

ソウルの日本大使館前で日本のMD配備に反対するデモを行う南朝鮮市民、社会団体のメンバー [写真=聯合ニュース]

 「米国が日本へ近づいてきたことになる」

 佐藤茂樹衆議院議員は4月のプラハにおけるオバマ大統領の「核軍縮」発言をさしてそう語る。あの核の超大国が平和を希求する日本のほうへやっと近づいてきた、すてきだ―ということらしい。佐藤氏は公明党の政務調査会安全保障部会長。いや、この肩書きより、ひたすら日米の軍需産業の興隆にいそしんできた自民党・公明党・民主党の議員たちの構成する安全保障議員協議会(新軍需利権族)の事務局長のほうが彼の素地をよく表わす。

 新軍需利権族たちが口にする「軍縮」はとてもつまらない皮肉か、さもなくばペテンでしかないけれど、とにかく佐藤氏と同様、いま日本には主観の泥沼にどっぷりとひたってラチもない悪夢にふける、とんでもない病がまん延している。それは、いわゆる朝鮮問題に対するときひときわ露になる。しかし、主観は主観、夢は夢なのだ。

 米国製MD(ミサイル防衛)システムの開発と対日拡販につとめてミスターMDとも呼ばれるラムズフェルド国防長官の顧問をつとめていたシュナイダー元国務次官(現国防科学評議委員会委員長)が日本のぬるま湯めいた「主観」や「悪夢」を撥ねのけ、オバマ大統領で何が起こるのかをこんなふうに表現する。

 「オバマ政権は米日関係をより強化していく。ですから、それは日米の防衛産業が協力し合う大きなチャンスなのです。過去の日本を再編する良いチャンスなのです」

過去の日本再編へ

 オバマ米政権、日米関係の強化、そして日米防衛産業にとっての「チャンス」。この3つのカテゴリーはどうからみ合うのか。

 米国の09年10月から始まる2010会計年度における国防予算総額は6640億ドル(約63兆円)。うちMD関連は78億2600万ドル(約7400億円)、つまり13%減にしてオバマ色をにじませたといわれる。しかしその中身をもっとよくチェックすべきなのだ。たとえば敵の弾道ミサイルを最大高度150キロで迎撃する地対空ミサイルTHAADや、イージス艦に搭載しているミサイルSM3の能力をさらに充実させるため約10億ドルを注ぎこむが、コーエン元国防長官はこの点をはっきりと指摘して「日本も強化される」と説明する。

 なぜ日本も強化されるのか。同ミサイルの能力充実化作業や新兵器の開発などを通じ日米防衛産業はいっそう密接になっていくだろう。とともに、日本がミサイルを含む米国製兵器のすばらしい顧客であり続けるに違いないからだ。現に、4月5日の朝鮮の人工衛星打ち上げのさい日本は、これまで8000億円以上も費やして入手したPAC3とSM3をおおげさな身振りで用意したもののその無力さを思い知らされ、じつはこれを奇貨ととらえたフシがみられるけれど、すばやく列島全域に配備すれば1兆円近くにのぼると推定されるTHAAD≠ヨ手を伸ばしているのである。

 そもそもオバマ政権の軍縮とは、日米の「対等な関係」とは何を意味するのか。日本の軍拡である。日本のさらなる軍需の拡大である。

「国際社会」という「幽霊」

 また、こんな側面を見落とせない。元広島市長の平岡敬氏が6月26日付の朝日新聞でこう語っている。

 「オバマ氏はブッシュ政権の国防長官を留任させ、世界一のミサイルメーカーのトップを国防副長官に起用した。米国では軍産複合体が政治に強大な影響力を持っている」

 そうなのだ。クリントン国務長官やゲーツ国防長官の背後には巨大軍需企業がひかえる。あまつさえ、オバマ大統領の抜てきしたウィリアム・リン国防副長官は、PACやSMなどのミサイル群を抱え、THAADの開発に加わってもいるレイセオンの副社長としてつい昨日まで対政府戦略営業部門を統括していた人物である。つまりオバマ氏は日本における手前勝手な幻影とは無縁。何よりも米国の国益を確保しなければならない、堅牢な軍産複合体に包まれた大統領なのだ。

 さて、そこで彼は日本や韓国に核の傘をかざして彼なりの軍拡ビジネスに励もうとしているのだが、再び目を向けたいのは日本における危機幻想の深刻さである。これがオバマ流の「対等」の論理と重なったときどうなるのか。

 たとえば日本経団連の防衛生産委員会(委員長=佃和夫三菱重工業会長)は政府が改定作業を本格化させている防衛計画大綱に揺さぶりをかけようと7月初め、肥大しきった危機幻想を利用して「提言」をまとめ、もうかつてのようなおずおずとした態度ではない、多国間の兵器開発への参加や国産兵器の自由な輸出の権利を握りしめようと武器輸出三原則の見直しなどを強く主張し、はては早期警戒衛星の導入といった宇宙の戦場化の積極的な推進までも明確に求めている。

 こんな欲望開示に外務省の「国際社会の平和と安定」(外交青書2009)というカケ声やマスコミの「国際社会が許さない」という常用語がかぶさる。彼らがしきりにもてはやす「国際社会」とは何か。外務省関係者たちがさんざんクビをひねり「定義はありません」と答える。危機幻想と国際社会。日本列島はそのふたつの幽霊に支配されている。(野田峯雄、ジャーナリスト)

[朝鮮新報 2009.7.10]