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オモニと焼き芋と沈丁花

 あれは、13歳の冬だった。

 その日は日曜日だった。焼き芋を売り歩くオモニの引くリヤカーを押していた。

 買い物客でにぎわう小さな商店街の入り口にさしかかったのは、陽が暮れ始める頃だった。

 焼き芋を買いに来たお客さんを相手にしていると、女の子が数人こっちの方へ近寄って来る。見ると同じクラスの子だ。ぼくはとっさにその場を離れた。

 どれくらい時間がたっただろうか、しばらくして戻るとオモニが「おまえはどこに行ってたんだね。なんにも言わないで」。

 オモニのその言葉を聞いてもぼくは、何も答えることができなかった。とても言えなかった。それ以上に、とっさに消えた自分が、何か罪を犯したようで心が痛かった。訳もなくオモニにすまないと、何度も何度も謝った。

 その日から45年の歳月が流れた。

 なぜなのか、これほど月日が経っても、いまなおその日の光景が目に焼きついている。

 朝早くから夜遅くまで働きづめだったオモニ。家族のために身を粉にしながら力の限り愛情を注いでくれたオモニ。

 そんなオモニに一瞬たりとも背を向けた罪悪感が、いまも身体のどこかに潜んで、ぼくの心を苦しめる。

 「母のお腹には仏が宿り、子のお腹には虎が潜む」という。

 軒先からほのかに香ってくる沈丁花が好きだったオモニ。今日も元気ですよね。

 親不孝の虎の声が聞こえますか。

(李小山 会社員)

[朝鮮新報 2009.4.3]