top_rogo.gif (16396 bytes)

春香遺文 −徐廷柱−

 お健やかでおられますよう、
 トリョンニム。
 過ぎし五月の端午の節句、
 初めてお逢いした日
 ふたり木陰で佇んだ
 あの青々と茂った樹のように
 いつの日もお健やかで
 お健やかでおられますように。

 あの世がどこなのかは
 はっきりとは存じませんが、
 この春香の愛にかなうほど
 それほど遠く離れた見知らぬ場所では
 ないようでございます。

 千尋の地下深く
 黒い水となり流れようとも
 兜卒天の空高く
 雲となり翔けようとも
 それは結局トリョンニムの
 お傍ではございませんか?

 ましてあの雲が
 夕立となり降り注ぐ時
 春香はまぎれもなく
 そこにいることでございましょう。
 (※トリョンニム=若様の意)

1948年5月

「徐廷柱詩選」(1955年)収録

 ソ・ジョンジュ(1915〜2000)

 全羅北道高敞郡生まれ。民俗的、仏教的な作品を多く残し、固有な民族語を駆使した詩人として知られる。しかし植民地時代と軍部独裁、維新独裁統治下での権力依存的な処身により否定的評価を受けている。この詩は民族古典「春香伝」をモチーフにした作品。號は「未堂」「窮髪」。(選訳・金栞花)

[朝鮮新報 2009.5.18]