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あの日 −チョン・ミンギョン−

 俺ぁ自転車こいで出勤してたんだ。

 そしたらいきなり誰かがドン、と
 後ろに乗っかってきた。
 誰だと聞くと、その坊主が
 いいから一緒に行きましょう、と言う。
 行けと言うからとにかく行ったんだが
 そのうち誰かが後ろの方で
 しきりに呼んでる気がしてよ、
 そして止まったんだ。
 なのに後ろのその坊主が
 行きましょう、行きましょう、と言う。
 さっきから尻の青い小僧が
 大人に向かって生意気に、
 どんな野郎だと振り返った。そしたら
 涙まみれ鼻水まみれのそいつの顔より
 先に 銃口が見えたんだ。

 銃口がだんだん 近づいてくる。
 まったく今考えてもよ…あん時ゃもう、
 小便ちびりそうになったさ。
 その時俺が震えてたのか
 俺の裾をつかんだ小僧が震えてたのか
 とにかく、ひどく震えちまってよ。
 坊主が声もからがら
 行きましょう、行きましょう、
 こう急かすが 足が竦んで動けねぇ。
 銃口が俺をぐいと突く。
 どういう関係だ? と聞いてくるが
 声が出ねぇ。
 そしたら後ろの坊主が血の気のねぇ顔で
 いとこの兄さんです、とこう言うんだ。
 さっきは開く事すらできなかった
 俺の口からとっさに
 違います、と一言飛び出した。

 坊主は銃口に連れてかれ、俺ぁ
 振り返りもしねぇで夢中で走った。
 心臓がバクバク飛び出そうでよ。
 ずっと向うの丘まで走って行って
 やっと振り向くと、さっきの坊主が
 制服姿だったんだ。
 まだ年端もいかねぇ坊主がよ…

 そうして 俺ぁ
 テレビも見ねぇし、
 ラジオもつけなかった。けどよ、
 毎日、何日過ぎても
 誰かがしきりに後ろで
 行きましょう、行きましょう、
 こう言ってくるんだ。

 今もまだ あの坊主の後姿が
 眼にちらつくんだ…

 (07年「5.18民主抗争記念 第3回ソウル青少年百日場」詩部門大賞作品)

 チョン・ミンギョン(1989〜)

 全羅南道麗水生まれ。6歳まで光州で育つ。京畿女子高等学校3年在学中、親戚に聞いた光州民衆抗争の話を元にこの詩を書いた。他に離散家族の再会を題材にした「ニヤル ポム(来年の春)」がある。平凡な女子学生が書いたこの散文詩は多くの人の胸を打ち話題となった。

(選訳・金栞花)

[朝鮮新報 2009.6.8]