〈みんなの健康Q&A〉 産業医とは−役割・仕事 |
Q:職場における健康管理や環境整備が問われる一方で、過労死や自殺などが社会問題となっています。 A: 近年、急速な技術革新や産業構造の変容がみられ、経済情勢と労働環境の悪化のなか労働者の就労状況はより厳しくなっています。このような状況は産業保健上さまざまな問題を引き起こしています。それらに対し医学的専門家として関与するのが産業医です。 産業医とは、事業場において労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事がおこなえるよう、専門的立場から助言・指導する医師をさします。その仕事の内容は健康管理が基本ですが、とくにストレス対策、メンタルヘルス対策、休職や復職の診断と判定が特徴的です。そのほかにも、有機溶媒や粉塵などの有害物質の管理、健康教育などの広報活動、作業場や職場の安全管理、社内での健康および安全管理体制作りなど、多岐にわたります。 Q:どのような事業所に産業医を置かなければならないのですか。 A:常時50人以上の労働者が働く事業所では、労働安全衛生法によって産業医を選任することが義務付けられています。なお、常時1000人以上の労働者が働く事業所または有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業所では専属の産業医を選任しなければなりません。また、常時3000人以上の労働者が働く事業所では2人以上の専属の産業医を選任しなければなりません。 Q:専属でなく嘱託の産業医もあるのですか。 A:常時50人以上で999人以下の労働者を使用する事業所における産業医の選任形態は嘱託、すなわち非常勤でも可能です。一般的には事業所近くの開業医や勤務医に委嘱されることが多く、その契約はふつう所属の医師会を通して行われます。この場合は、地域社会における「かかりつけ医」としての役割も兼ね備えた積極的な活動が期待されます。 Q:仕事にはどのようなものがありますか。 A:産業医の仕事は大きくわけて作業環境管理、作業管理および健康管理の三つがあり、これを「産業保健の三管理」と呼んでいます。これらのほかに実務的には総括管理、労働衛生教育も重要な仕事です。仕事の流れとしてまず職場巡視を定期的に行い、できるだけ一人ひとりと対面し人間関係の構築を図りつつ、職場状況や作業状況を点検把握します。そのうえで、事業者や従業員と意見交換しながら助言、指導します。次に、健康障害が発生したときには原因調査への医学的助言をして、評価、指導を行います。さらに、健康保持、増進計画を策定して、研修会などを組織したり、危機管理の社内体制作りをすすめます。安全衛生委員会にも出席して、会社総体に対しても働きかけをします。 Q:具体的にはどのようなことを行うのですか。 A:有害物質の管理、工場や事務所内の環境測定と改善をおこなうのが作業環境管理です。作業場の明るさ、換気、騒音、気温、広さなどを調査・検討し、より快適な作業環境を維持しなければなりません。作業環境の良し悪しは職業病・労働災害の発生に大きく影響します。作業姿勢や作業時間の管理、有害物質への曝露の測定、身を守るための保護具についての管理を行うのが作業管理です。作業にともなう有害な因子、すなわち有害化学物質の曝露、振動、騒音、気圧の変化などを点検し、改善を指示します。職業病の発病と労働災害の発生を予防するには作業の仕方・作業時間を適切に管理することも必要です。 健康診断や休職・復職時の診断、健康教育や疾病予防などが健康管理にあたります。健康診断の実施とその結果に基づく生活指導、休養のすすめ、治療、配置転換指示などを行います。また、疾病・防疫の管理療養の指導とともに、健康相談にのったり、衛生教育や健康指導も行います。 Q:仕事の内容がもりだくさんですが、現場の労働者に限っていえば、危機管理や実践面での注目事項は何でしょうか。 A:現場で働いている従業員にとっては健康その他の理由で職を失うことが最大の問題です。とくにメンタルヘルス対策が最近では大きな課題となっています。職場の安全管理が直接関係するのは彼らですから、その能力を十分に発揮させるためには、産業医が中心となってより良い快適環境を実現することが求められます。また、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病の予防と改善が休職、退職につながる重篤な合併症の予防には不可欠です。休職、復職さらに配置転換時には診察をしたうえで、助言やカウンセリング、あるいは専門医への紹介をします。 Q:管理職は部署の長として部下を率いていかなくてはならず、職務上の責任が大きく精神面での負担も大変ですね。 A:責任ある立場として部署の生産性が下がらないよう常に緊張していなければならず、そのためストレスが多く自身の健康を損ねやすくなります。部下の休職と復職にかかわる調整や、精神的に問題のある部下の扱い方、職場の安全管理やストレス環境の改善など、いろいろな場面で専門職である産業医の協力は欠かせません。事業経営者においては、従業員の安全や健康保持について最終的責任を負っているので、職場での危機的事故発生防止のため、産業医の助けを得て安全配置義務を喚起し、徹底させなければなりません。(金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800) [朝鮮新報 2009.7.22] |