〈本の紹介〉 狙われた「集団自決」
「記憶の暗殺者」への怒り
元戦隊長らによって起された大江・岩波裁判と「軍の強制」を削除した教科書検定への怒り。
ミニコミ誌「新聞うずみ火」(大阪市)記者の栗原佳子さん(45)が、「狙われた『集団自決』」を出版した。栗原さんは、文部科学省の教科書検定で、「日本軍の強制性」を示す表現を削除させられた問題を4年がかりで追った。沖縄戦で住民の集団自決を体験した人たちの証言を丹念に集め、検定での対応を厳しく批判している。
05年8月、日本の右傾化が進む中で、大阪地裁に提訴された名誉棄損訴訟。作家・大江健三郎さんの著作「沖縄ノート」などで、自決を命令したと虚偽の記述をされたとして、沖縄・渡嘉敷島と座間味島に駐留した旧日本軍の戦隊長らが、大江さんらを訴えた。
栗原さんが体験者に取材するようになったのは、大阪地裁での審理が始まったのと同じ同年10月。かつて在籍していた黒田ジャーナルの先輩らと「新聞うずみ火」という月刊のミニコミ誌を創刊したのがきっかけだった。歴史修正主義者が皇軍の名誉回復を画策するなら逆に「軍隊は住民を守らない」ということを少しでも書き続けていこうと「狙われた沖縄戦」と題して連載を始めたという。この連載は今も続いている。本書は書き下ろしだが、ここの連載がベースになっている。
一、二審とも原告が敗訴した裁判の経過や教科書問題で抗議の声が沸きあがった沖縄の状況が本書には詳しく取り上げられている。栗原さんは、沖縄・渡嘉敷島と座間味島両島に足しげく通い、自決から生き残った人たちの凄惨な体験談をまとめた。被害者らが重い口を開いたのは、「皇軍の名誉回復」などと歴史改ざんをもくろむ「記憶の暗殺者」たちへの激しい怒りと、その怒りを真摯に伝えようとする栗原さんへの信頼感があったからこそだと思う。
栗原さんは本書の巻末で、「体験者たちの今も語れない苦痛を想像すること自体が傲慢ではないか」と謙虚に振り返りながら、この期におよんでも沖縄の叫びを顧みない本土との落差にあらためて愕然とするばかりだと述べている。(栗原圭子著、社会評論社、2300円+税、TEL 03・38143861)(朴日粉記者)
[朝鮮新報 2009.7.24]