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若きアーティストたち(68)

チェリスト 任Q娥さん

 童話「セロ弾きのゴーシュ」(宮沢賢治著)でおなじみのチェロ(セロ)。

 弦楽器の中では一番音域が広く、力強さと甘美な音色を兼ね備えた楽器である。柔かく優雅な音を奏でるソロ楽器として、アンサンブルでは深く響く低音で他のパートを支える重要な役目を担う。

 チェロを手にしたのは、初級部4年生。民族管弦楽部に入部したときに、「背丈が高く、手も大きいから」と、顧問にすすめられたことがきっかけだった。

 当初からフルサイズの楽器を持たされ、「やたら大きくて、メロディーを奏でるわけでもなく、地味で大変」という印象が強かったという。それでも、任されたポジションを投げ出すことはなかった。

 日々、チェロと真剣に向き合うなかで、その楽しさをより実感できることがあった。まず、初6のときに朝鮮で行われる「ソルマジ(迎春)公演」に出演したこと。約1カ月間、練習漬けの毎日だったが、レッスンを通じ、技術が見る見るうちに上達していくのがわかったという。

 そして、中級部2年から仙台ジュニアオーケストラに参加したこと。主にクラシック音楽を学び、今までとはまた違うチェロの味わいや深みを知り、音楽そのものにのめり込んでいった。

 中3、高2、3のときには在日本朝鮮学生芸術コンクールにソロで出場、中3、高3では金賞に輝いた。

友人の結婚式で演奏する任さん(右)

 気がつけば、チェロはすっかり生活の一部となっていた。高級部卒業後は、東京音楽大学に進学。両親は、東京へ出ることに何の迷いもなく背中を押してくれた。「私を信じてくれて、やりたいことを思いっきりやらせてくれた両親には、感謝の気持ちでいっぱい」。

 大学生活は新しいことばかりだった。教授とのマンツーマンでのレッスン、粒ぞろいがひしめく環境、現代音楽との出会い…。「なるべく多くのものを吸収できるように」と、アンサンブルや学内外の発表会など、演奏の場には積極的に参加してきた。「忙しかったけれど、手を広げていろんなものにチャレンジしてよかった。その経験が今の糧になっている」と語る。

 大学2年のときには留学同で出会った数人で「在日にしかできないコンサートをしよう」と、在日コリアン若手音楽家のグループ「パラン」を結成。定期的にコンサートを開き、メンバーを増やしてきた。今年は、12月7日に東京・新宿の角筈区民ホールで「PALAM Vol.7」を催す。

 その後、同大の大学院を経て、現在は音楽教室の講師を務める傍ら、コンスタントにコンサートなどに出演している。

 今まで数多くの舞台を踏んできたが、ソロやオーケストラよりも一番心地よいのは室内楽だという。「楽器一つひとつ、緻密な作業が要される高度な世界だが、自分の色を出しやすい。いわば、大勢でお酒を飲むよりも、気兼ねしない少数で飲む方が楽しい感じかな」と笑う。

 音楽に携わるうえで「人と人との縁、コミュニケーション」を大切にしている。チェロを通じて培ってきたものや人とのつながりを活かして、社会に貢献できる活動をしたい、と目を輝かす。「たとえば、ウリハッキョで音楽をやりたいという子どもたちの夢を現実に近づけるために、『パラン』のメンバーと各地のウリハッキョで公演をしたり、クラシックを普及したりと、力になれれば−」。

 来年2月13日には、東京・門前仲町の門仲天井ホールで「パランプロジェクト」の第一弾として、朝鮮の作曲家たちの眠っている作品を掘り起こす弦楽4重奏のコンサートを予定している。(姜裕香記者)

※1981年生まれ。東北朝鮮初中高級学校(当時)、東京音楽大学器楽科を経て、06年同大大学院研究科を卒業。06年から音楽教室で講師を務める一方、ソリストや室内楽、オーケストラの一員として活躍中。また、NHK教育テレビのパペット音楽バラエティー番組「ゆうがたクインテット」に登場するチェロ弾きのスコアさんの手の操演を担当。

[朝鮮新報 2009.10.19]