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くらしの周辺−おおきに!

 大変だ、大変だ、朝から高熱だ! 世間を賑わせている、かのインフルエンザにかかったのじゃないかという焦り。

 生徒を率いて関西地方を回った時のことだ。行程どおりいけばその日は奈良の寺院仏閣を訪ねるはずだが、これでは到底無理だろう。すでに、ある生徒は口を大きく開き目はうつろ、体全体にけだるさが重くのしかかっている様子だ。よし、決めた。病院直行だ。私と彼はそそくさとタクシーに乗り大阪の救急病院へ。案の定、診断は予想通りだった。親御さんの了承を得て東京へ引き返すことにした(もちろん引率も手配して)。

 その時、携帯に一本の着信が。なに、あと二人も高熱? 息つく間もなく再び生徒を迎えに。私の気持ちを察してか天候は最悪の大雨に。

 時間がない、早く二人を病院に連れて行かなければ。脇目も振らずに駆けて跳んで走って飛んだ。 しかし最悪の事態に遭遇した。靴の背中部分(食事中のラッコでいえば貝を割る胸部)が無惨にも裂けたのだ。まさに泣きっ面に「鰐」だ。天は我を見放したのか! 心の雄叫びは誰にも聞こえやしない。落ち合う場所へ着いた時、幸いまだ一行は到着していなかった。バスが渋滞で20分遅れるとの通報。よし、靴屋を探そう、全力を振り絞って雨の中をひた走った。あった! 恵みの靴屋が。だが支払いを済ませようと懐を確認したところ1500円足りない。万事休す。濡れそぼった私を舐めるように見下ろした初老の店主は開口一番、「おおきに!」。

 ふりしぶく秋雨をよそに、心温まる日となった。真新しい靴に履き替えその後の奔走劇は京都まで続いた。(李圭学、教員)

[朝鮮新報 2009.11.13]