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〈女性の生き方-下〉 それぞれの四季 筆者60人、連載360回超える

受け継がれるオモニパワー

 本紙女性欄のリレーエッセイ「それぞれの四季」のこれまでの執筆者は60人、360回を超えた。エッセイには、たくさんの笑いと涙、悩み、憤り、優しさ、意志の強さ、希望がちりばめられてきた。子育て世代の多くからは、在日1世から2世、3世へと受け継がれてきた民族の誇りを次世代へつなげていこうとする懸命な姿が見受けられる。「1世は、大変な苦労を乗り越え、私たちに民族教育を残した。こんな時こそオモニがしっかりしなくては−」。これは、9.17以降の子どもの現状を、オモニ大会で涙ながらに訴えたある若いオモニの言葉である。朝鮮学校は厳しい風雪から子どもたちを守り、魂を豊かにしてくれる。オモニたちがいるかぎりウリハッキョの未来は果てしなく明るい、との力強いメッセージは、われわれに勇気と希望を与えてくれた。

たくましい女性たち

各地で盛んに行われているオリニイベント(08年、西東京)

 神奈川県横浜市在住の任芳玉さん(03年執筆、35)のこの10年は、目まぐるしいものだった。任さん夫婦は2000年に結婚、2年間は夫の実家がある山口県下関で暮らし、その後8年間は横浜市に移り住み1男2女の母になった。下関は1世の健在な家も多く、民族の風習を重んじる土地柄もあって、「嫁」として多くのことを教わったという。「女性同盟山口県本部委員長である姑の『秘書』となり、同胞宅の冠婚葬祭にくまなく立ち会った」と振り返った。

 長女が生まれ、下関を中心に子育てサークルを立ち上げるが、その矢先に夫が転勤。02年、横浜への移住を決断する。横浜では次女を出産し、100日に満たないうちにカゴに入れ、1歳半の長女を連れて女性同盟の集いに参加した。「最近では乳飲み子を連れて来る人はめったにいないと驚かれた。でも、私自身、同胞社会とのつながりを強く求めていた」。

 当時、子育て論をテーマに開かれた講座は、任さんに新鮮な衝撃を与えたという。「それまで組織といえば政治性を前面に打ち出すのが当然だと思っていた。しかし、横浜で初めて参加した講座では、子育てに関するポピュラーな内容を取り上げていて、『こんなに一般的な内容も取り上げられるんだ!』と驚いた」。

 こだわりの殻を脱ぎ捨てて、中北支部子育てサークルを結成。04年からは神奈川県本部子女部副部長として各地の子育てサークル結成に奔走し「オリニ(子ども)フェスタ」の実現に結びつけた(同年7月、長男出産)。

 私生活の面では、子どもを保育園に預けることで日本の友人との触れ合いが自然に増えた。「ママ友」を自宅に招いて簡単な朝鮮料理教室を開いたり、ハングル講座をしてみたり。そうして築き上げられた人間関係があったからこそ、長女が朝鮮学校に通うようになると、「ママ友」自ら通勤時に同じ電車の車両に乗り合わせて、子どもの通学を見守ってくれたり、子どもの入学を機に仕事のスタイルを変えたからと、下校後の長女の面倒を見てくれたり、休日に任さんの仕事が入ったときなどは、自分の子どもたちも遊ばせるからと、任さんの子ども3人をすべて預かってくれたこともあるという。

 「以前は思ってもみない世界だった。私の居住地域は横浜でも同胞が少ない。いざという時は日本の友人に助けてもらっている。彼女の『オンマは何も心配しないで』との気持ちが何よりもうれしかった」

働く女性

家族3人で新たな生活をスタートさせた蔡慶愛さん(夫・李康樹さんと、息子・悠晄くん)

 蔡慶愛さん(07年執筆、38)は11月19日、3072グラムの元気な男の子を出産したばかり。蔡さんが働く金剛山歌劇団では近年、女性団員たちの結婚・出産がブームを迎えている。蔡さんが入団した1992年は、日本のバブル崩壊と不況の追い打ちで大幅な人員削減がスタートした頃だった。劇団でもオモニ団員のリストラが相次いだ。残された数人のベテランと若手が踏ん張って乗り越えてきた歳月。かつての若手が中堅となり、蔡さんは声楽部長という責任あるポストについた。

 昨年6月、同じ劇団員の声楽家・李康樹さんと結婚。「任された仕事は責任を持ってやり遂げたい」との思いから、結婚後も迷わず仕事を続けた。重責を担い、平の団員時代とは意識が変わった。以前なら自分を舞台の上でどう見せるかばかり考えがちだったが、今では声楽部をどうするか、若手団員をどう育てるかが大きな関心事となっている。

 また、結婚・出産後も劇団生活を続ける女性団員が増えつつある中、これから先の歌劇団と女性の働き方についても模索している。「昔の女性団員は、出産後、子どもを預けてすぐに地方公演に向かっていた。今は地方公演は休み、育児が少し落ち着いたら復帰するという形態を取っている。団員同士の結婚も複数ある中、女性だけが育児に専念するのは問題だ。地方公演と育児の両立は難しい課題だが、続けたいと思う女性が、仕事と育児を両立できる方法を探してみたい」。

 連載開始から10年。「それぞれの四季」を通して、これからもたくさんの人々とつながり続けていきたい。(金潤順記者)

[朝鮮新報 2009.11.30]