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〈朝鮮と日本の詩人-112-〉 鈴木比佐雄

子城台の春

 赤松・黒松が青の天上をつらぬき
 樹上をカササギが舞っていた
 上陸して半日
 この城も釜山も攻め滅ぼされました
 と語った女性ガイドの李さんは
 悲しく笑った

 二月の子城台の椿は
 蕾のまま枯れ
 敗れ去った兵士の
 涙のように落花していった
 耳や鼻を削がれた死者を悼むために
 椿の花が
 植えられたのだろうか

 石のくぼみにそそがれた水
 何のために汲まれているのだろうか
 雀のためか 死んだ兵士たちのためか
 鵯が遠くでかまびすしかった
(2連14行略)
 関が原の戦いで敗れた小西行長の首が
 椿の蕾のように落ちて
 一六〇〇年 京六条河原に晒された

 一九〇五年 この国は外交権を剥奪された
 一〇〇年後の青空を見上げると
 カササギの翼の白が
松に降りしきる霙のように
キラリと光った

 「子城台の椿」の部分である。題名は、壬辰倭乱の緒戦で陥落した城の名前からとられた。第3連までは、古戦場に漂う悲愁が、殺戮された兵士の無念と融合して侵略軍の残虐を明示している。最後の2連は贖罪をモチーフにし、秀吉の侵略が乙巳条約につながっていることを示唆している。叙情あふれる詩が強靱な抵抗詩になり得ることをも示した名吟である。

 1954年に東京で生まれ法政大学哲学科に学んだ鈴木比佐雄は、81年に第一詩集「風と祈り」を上梓した以後詩集7冊と詩論集「詩的反復力」他3冊をもつ。詩集・詩論集の出版社コールサック社を起こして多くの詩人に発表の場を与え、また「原爆詩一八一人集」「大空襲三一〇人詩集」を出版するなど、詩の社会参与に大きく貢献しており、「韓国」詩にも関与する注目の詩人である。(卞宰洙 文芸評論家)

[朝鮮新報 2009.11.30]