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劇団アランサムセ09年公演「現代朝鮮演劇シリーズVol.1」

「朝鮮には笑いも恋も涙もある」

公演に向けて練習に励む団員たち

 公演初日を迎えての緊張感は毎度のことだが、胸中に寄せては返す不安の大波と楽しみの小波は例年の比ではない。結成21年目にして初めてオリジナルではない戯曲、それも現代朝鮮戯曲に挑戦するからである。不安要素が戯曲というと朝鮮のそれが弱いという風に聞こえるかも知れないがそうではなく、今までの劇団オリジナル戯曲に対する自負と自信の裏返しと考えていただきたい。

 「今まで気づかなかった日本の現実を描いて深い感銘を与えてくれた」(全国の19劇団が参加した「アリスフェスティバル」でのアリス賞受賞理由)、つまりは在日同胞を巡る諸問題を斬新かつユニークな視点で深く切り取ってきた(と自負する)、劇団の「ライフワーク」ではない作品を上演することへの不安なのである。

 実際、「在日問題」の舞台創造に君らの存在価値はあるんじゃないかというご指摘もいただいたし、今回上演する30分前後の軽喜劇に今まで2時間ものでこだわってきた深い感動や衝撃を求めることは無理な相談なのだ。ではなぜその「不安」を予期したうえで朝鮮演劇挑戦を決めたのか。背中を押してくれた(押された?)一つは5月の朝日新聞のコラム、「平壌で恋仲らしい二人が口論中、女性は泣いていた。意外な人間味にほっとしたが、一瞬これが噂の熱演かと身構えたものだ」。得々と「北」を語り論じるこの国の「知識人」の何割いや何分いや何厘が朝鮮の文化にかすったことがあるのだろう? いかに政治や外交が専門と言えどその国の文学や映画や音楽について全くの無知ということは他の国に関してはないはずだろうに、なぜか「北」に対してだけはそれが許されるという異常状況。「北の人間は恋愛しない」と思い込んでいる(洗脳されている)「知識人」に、朝鮮には笑いも涙も恋も家庭もあるという当たり前のことを教えてやらねばと思ったわけだ。

 もう一つは6月の「日韓演劇フェスティバル」。邪魔する筋合いはないのだが正直、もう日韓いいでしょう、年に何回「日韓○○」やってるのっていう思いから、日本の主催者には日朝の、南の主催者には南北の演劇交流を考えるべきではないかと申し述べたところ共感と同意をえられ、日本の主催者から「朝鮮の演劇を紹介する文章を書いてくれないか。報道からは人の生活や感情なんて全く伝わらない」という言葉をいただいた。背中をグググイっと押されたわけだ。「劇団理念」を「曲げてでも」やらなきゃいけないんじゃないか、やってみる価値はあるんじゃないかと。そうして数多の朝鮮戯曲を読み漁り短いコメディを3本選んで、「まずはご紹介」と銘打ち「朝鮮の芝居で笑いをとれ!」なるコピーを掲げた。

 「自分たちの生活と問題」だけを演じてきたわれわれが朝鮮の笑いをいかに表現するのか、劇団の力が試される新たな挑戦とも位置づけている。私自身、日本語、朝鮮語、日本語の3連続で異なる役を演じるという初めての試みに99%ビビッて1%楽しんでいる状況だ。

 これまた初の試みである舞踊ユニット「舞ロード」とのコラボが実現、「美女軍団」が花を添えてくれる劇団アランサムセの「現代朝鮮演劇シリーズ」、朝鮮の芸術は面白みがなく堅苦しいと思われている同胞や学生の方々にもぜひご笑覧いただきたい。(金正浩、朝鮮大学校文学歴史学部教授、劇団アランサムセ主宰)

[朝鮮新報 2009.12.19]