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安重根義挙100周年記念国際学術会議に参加して

英雄面だけでない思想の高さ

 11月29日から12月3日にかけて中国延辺朝鮮族自治州の延吉市で、「安重根義挙100周年記念国際学術会議」が開催された。主催は延辺大学民族歴史研究所、主管は朝鮮社会科学院歴史研究所、高麗大学校韓国史研究所、中外文化交流史学会、後援は東北アジア歴史財団である。朝鮮大学校も招請を受け、金竜進歴史学講座長と筆者が参加した。

北、南、中国で活発な研究

中国・延吉市で開かれた安重根義挙100周年記念国際学術会議

 会議は三つのセッションからなり、計14本の論文が発表された(朝鮮社会科学院歴史研究所は4本の論文を提出)。第1セッションの主題は「安重根に関する南北、中国、日本の研究状況」、第2セッションは「安重根の思想と義挙が国内外に及ぼした影響」、第3セッションは「安重根義挙の現在的課題」である。各セッション別に報告と討論があり、最後に総合討論が行われた。金竜進講座長は「日本の教科書に記述された安重根−中学校社会(歴史)の記述を中心に」、筆者は「日本における安重根研究の状況と課題」を発表した。

 会議では多様なことがらが討議されたが、参加者が共有することができた成果は以下の通りである。

 第一に、安重根関係の遺跡調査の結果が発表され、安重根の活動の空白期を埋める新しい資料をえることができたことである。朝鮮社会科学院歴史研究所では、今回の学術会議に備えて、今年の9月と11月の2次にわたって、安重根が生まれ育った朝鮮北部地域の海州、信川、南浦にある関連遺跡の調査と縁故者の聞き取りを行った。これにより、安の成長過程の一端を跡づけることができた。また、中国琿春市人民政府は同市浦恩洞に残っている関連住居址を調査して、同地が1907年から1909年まで安重根が沿海州と朝鮮国内を往来する際、一時滞在した場所であったことを確定することによって、中国における安の活動をより明らかにした。

 第二に、従来安重根の行為(伊藤博文暗殺)のみをもって彼を英雄的に評価してきたが、彼の真価はむしろその思想の高さにあるとして安重根の朝鮮近代思想史上の位置を明らかにしようとした。安は天賦人権論を基礎にして、開化思想、キリスト教思想が複合された思想体系を備えていた。また、安の生涯は愛国啓蒙運動および義兵闘争の二つの潮流を統一する軌跡を描いていることから、生成期における朝鮮近代ナショナリズムの原型をなしていることが強調された。

会場に参加した人たちの記念撮影

 第三に、安重根裁判の問題点と国際法の可能性について指摘がなされた。関東都督府地方法院で開かれた裁判は、裁判所の管轄権を確立する法的根拠が欠けており、また、当時の小村寿太郎外相が法院に極刑に処すべしとの指示を出していたことから政治裁判の様相を帯びていた。独立戦争の一環として伊藤博文を射殺したのであって、捕虜として扱うべきだとする安重根の主張は、当時の国際法(特に戦争法)によれば正当な主張であった。裁判そのものが不法であり、名誉回復と真相究明のための措置が必要であることが指摘された。

 第四に、安重根の「東洋平和論」が持つ、優れた現代的な意義について指摘された。安の東洋平和論は、帝国主義による東アジアへの侵略に対抗して朝・中・日の三国連帯とその実践方法を構想したものである。この構想は、朝鮮の開化派が主張した中立論とも、日本のアジア主義者たちが唱えたアジア連帯主義とも次元が違い、独立と平和を追い求める普遍的な文明観を基礎としつつ、まず東洋三国が共同体を構成して世界に模範を見せようとしたものだった。今日盛んに論じられている「東北アジア平和体制」の構築を、すでに百年前に構想した思想家であることが高く評価されるべきだと強調された。

 第五に、日本での安重根評価の問題点が指摘された。日本の歴史研究と歴史教育では、今なお安重根が無視されており、扱われたとしても射殺という行為のみを取り出して、「愚かなテロリスト」と見ようとする立場が強い。その反面、伊藤博文の統監統治については、「韓国の近代化を実行」しようとしたものだと肯定的に評価する傾向が強くなっている。自国中心主義を克服して、「アジアから日本を視る」ことが大事であることが強調された。

中国・延辺地域の重要性

 今年に入り、開城、ソウル、京都、ハルピンなどで安重根義挙100周年の記念式典などが開かれた。今回開かれた国際学術会議の特色はというと、北南朝鮮、中国朝鮮族、在日朝鮮人など東北アジア地域に居住する朝鮮半島出身の研究者が延吉という場に集まり議論したことをあげることができよう。おりしも中国国務院が図們江地域開発事業を正式に国家級に格上げした消息が伝わったこともあり、北南朝鮮合作と東北アジア協力の重要な場としての延辺の役割がますます高まっていくであろうことが実感できた。延辺大学関係者たちのそのような役割を担うことへの責任感と高揚感に満ちた姿が、とても印象的だった。(朝鮮大学校図書館館長 康成銀)

[朝鮮新報 2009.12.25]