W杯出場の裏にある朝鮮代表の強さとは 金光浩コーチに聞く |
サッカー朝鮮男子代表がFIFA(国際サッカー連盟)2010年W杯南アフリカ大会への出場を決めた。本大会へは44年ぶり2回目の出場となる。アジア地区3次予選、そして最終予選と、代表チームのコーチとして帯同し、選手たちを見つめてきた在日本朝鮮人蹴球協会・金光浩副会長に話を聞いた。「死のグループ」と呼ばれたグループBを勝ち抜いた裏には、何が隠されていたのか。 ■ −昨年2月に行われた東アジア選手権(中国・重慶)から朝鮮代表チームのコーチになり、3次予選、最終予選をそばで見てきた。現代表はどんなチームか。
「海外組」と呼ばれるホン・ヨンジョ選手(ロシアリーグ・ロストフ)、鄭大世選手(Jリーグ・川崎フロンターレ)、安英学選手(Kリーグ・水原三星)が加わることで、チームがバージョンアップした。25人ぐらいが常に代表候補として挙げられ、競争心も高い。若い世代からの突き上げもある。そういう意味で層が厚くなった。 現代表チームはディフェンシブなチームだ。それについて国内で批判があったのも事実だ。3次予選中もそうだったし、最終予選進出が決まった時も「このサッカーでは、W杯進出は無理」という声もあった。でも、最終予選で1戦1戦、勝ち点を積み重ねていくなかで、雰囲気は変わっていった。 代表選手の潜在能力は高いと感じている。その個々の能力をより発揮させるために、システム、監督の采配がある。それぞれが持つ力を出し切らなければ勝てなかったし、システムが機能し、そのバランスも戦いのなかで良くなっていった。
−「死のグループ」を突破できた要因はどこにあるか。
ひと言、強い精神力だ。もちろん精神力だけで試合に勝てるほど甘くはないが、いろいろなプレッシャーのなかで、高いパフォーマンスを披露するためにも、それに耐える精神力がなければならない。そういう意味で精神力はとても大切だった。 次に、フィジカルが強かったことが挙げられる。アジアでもトップレベルのフィジカルをより高める練習を意識的に取り入れた。鄭大世選手はJリーグの中でもフィジカルの強い選手と言われるが、彼も代表チームではトップになれないほどだ。代表選手たちの潜在能力は高い。 最終予選で、余裕があった試合などない。負けられない試合の連続だった。でも体力的には自信があった。だからこそ、まず前半は相手の攻撃を耐え抜くと同時にゲームの流れを引き寄せること。後半になれば相手の運動量が落ちるから、得点のチャンスが生まれる。 06年のW杯予選(05年)と比べてみて、今にして思えば、最終予選初戦のアウェーでのUAE戦で「勝ち点3」を手に入れたことが大きかった。今まで中東勢に対し苦手意識があったが、現代表にはそれがない。アウェーゲームの厳しさはあるが、ホームでは勝てるという意識もはっきりとある。 −在日同胞2選手は、代表チームでどんな存在か。 安英学選手に関して言うなら、チームメイトのみならず、監督も絶大な信頼を寄せている。安英学選手のプレースタイルがチームにフィットしているのも確かだ。1対1のディフェンス、フィジカルに強い選手は国内にもいる。しかし、ゲームの流れを読みながら危機を感知する能力において、安英学選手の右に出る選手はいない。彼自身も年齢的にこれが最後のW杯への挑戦だと感じていたから、「骨が折れても戦う」と話していた。それだけ代表にかける思いが強いし、同時に、代表にはそれだけの魅力があるのだと思う。 鄭大世選手に対しては、代表チームも、国内でも、彼にかける期待度が普通ではない。自他ともに認めるエースだ。突破、得点を狙える選手として、人気がとても高い。相手DFからも警戒される。彼がDFを引きつければ、ホン・ヨンジョ選手をはじめとする他の選手へのマークが緩む。そこに得点チャンスが生まれる。鄭大世選手は最終予選で1得点しか挙げられなかったが、それ以上の働きをしていた。 鄭大世選手は、代表に選出された初期、チームとうまくフィットできなかった。でも、試合を重ねながら実力を示し、信頼を勝ち得たからこそ、今ではチームになくてはならない存在になった。 −W杯本大会まであと1年。課題は。 今のままで世界と対等に戦えるとは、選手たちも思っていない。いきなり救世主が現れるわけでもない。このチームをどう強くしていくか。どういうチーム作りを目指すのかは、今はまだ明言できないが、最終予選のプレースタイルが基本になることは確かだ。それを母体にしながらどう攻撃的に仕掛けるのか、だ。 44年ぶりのW杯出場は、朝鮮サッカーにとって、とても大きな意味を持つ。国内においては、一段レベルを高められた。そして本大会では、それが世界のレベルと比べてどうなのかという判定が下される。とても厳しい判定になるかもしれないというのも、事実だ。あと1年、朝鮮サッカーのこれからを見据えたチームを作っていきたい。 最終予選突破を偶然という人もいる。でも、過去に偶然で本大会に出場したチームがあったであろうか? 偶然もここまできたら、もはや偶然ではないと自負してもいいだろう。(聞き手=鄭茂憲記者) [朝鮮新報 2009.6.24] |