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在日1世の死−「6.15」の喜びを再び

 先日、総連埼玉北部支部・安承模顧問の訃報を知らされた(享年91歳)。

 記者になって4年目の夏、歴史的な6.15北南共同宣言が発表され、同年9月に「総連同胞故郷訪問団」の63人が、解放後初めて南の故郷の地を踏んだ。記者が安氏宅を訪ねたのはその直後のことだった。

 満面の笑顔で迎えてくれた同氏は、開口一番に「故郷へ行ったら、家の前に『安承模故郷訪問歓迎』の大きな幕が掲げられていて、村中の人たちが総出で歓迎してくれたんだ。そしたら、涙があふれてどうしようもなくて…」と話し出した。

 1938年、当時20歳だった安氏は、「日本に行けば金を稼いで仕送りができる」と日本の憲兵にだまされて、「募集」の名目で長野県のダム建設現場に連行された。しかし、そこで待ち受けていたのは死と隣り合わせの奴隷労働だった。命の危険を感じた安氏は、故郷(慶尚北道)の仲間と逃亡を決意し、命からがら逃げ出した。

 その後は、朝連結成当初から愛国事業に一身を捧げてきた。軍事政権下の南の家族・親族との連絡は次第に途絶えた。それが一変したのが6.15共同宣言の発表だった。62年ぶりに見た故郷の風景は、山も川も昔の面影を残している所は一つもなかった。しかし、そこに住む人々は安氏を手厚くもてなし、彼の話に耳を傾けた。安氏の笑顔、その涙が、記者の亡き祖父の姿と重なり、胸が熱くなったのを覚えている。

 忘れられぬ感動の夏から9年、李明博政権発足後の北南関係は、20年前に逆戻りしたも同然だ。安氏の冥福を祈るとともに、統一への新たな前進を強く望む。(潤)

[朝鮮新報 2009.8.7]