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「運命の人」−政府の「かくしごと」暴く

 国家を揺るがす大スクープか取材源の秘匿か−沖縄返還一年前に起こった西山事件(外務省秘密漏洩事件)をモチーフに、国家にズタズタに翻弄される新聞記者を描いた小説、「運命の人」(全四巻、山崎豊子作)を読み終えた。

 「(沖縄)返還にあたって日米間で取り交わされた密約を掴み、糾弾した新聞記者が逮捕され、最高裁で有罪が確定した。…時の政権の面子を守るために、1人の新聞記者生命を奪っていいのか、そのあまりに不条理な判決が、『運命の人』を書くきっかけになった」と、著者は「あとがき」で記している。

 取材・執筆に10年をかけただけあって、鬼気迫るリアルさに、ぐいぐい引き込まれる。最後まで嘘をつき通す日本政府の厚顔無恥ぶり、検察の巧妙な情報操作、メディアの腰砕けぶりが抉り出されていく。

 思い出すのは、昨年末死去した評論家・加藤周一さんの次の言葉である。

 「冷戦の論理は、腐敗の論理である。『反共』でありさえすれば、何をしようとかまわない」

 「かくしごとは最近の事実にかぎらない。さらにさかのぼって十五年戦争の間政府がかくしていた『不幸な』事実も、次第にあらわれて来たのである。日本の戦後五十年は、ほとんど暴露の半世紀、かくしごとのバレゆく過程であった。『大東亜戦争』実は軍国日本のアジア支配、南京大虐殺、七三一部隊の人体実験、従軍慰安婦の制度…その『かくしバレ』過程は、今も終わらず」と。

 「かくしごと」はどうせいつかバレる。バレたときにはもう手遅れになる。「運命の人」は「かくしごと」ばかりする日本の政治を完膚なきまでに叩いた執念の書である。(粉)

[朝鮮新報 2009.8.21]