〈民族教育を守る「差別を許さない」−C〉 スポーツで結ぶ絆 |
「それはおかしい」
「全国高等学校体育連盟」(高体連)のある関係者は、「全国大会」で活躍する朝高生を見ながら、「技術を高め合う仲間」「日本の高校生と同じ」だと語る。「高校無償化」問題が取りざたされているが、朝高の監督らと培ってきた友情と絆にぶれはない。 高体連主催の「全国大会」に朝高生が出場できるようになった背景には、同胞とともに世論を喚起した日本のスポーツ関係者らの働きかけがある。奈良県立王寺工業高校ボクシング部監督の樋山茂さんもその一人だ。 樋山さんは高校生のときから在日の友だちと親しくしていたという。 「在日の人たちは日本社会の一員。今回の『無償化』問題を聞き、『(日本の高校生も朝高生も)一緒ちゃうんかい!』と思った。『無償化』から除外すると言う人たちには、もし、立場が逆だったらどうなのかということを考えてもらいたい。朝高の先生たちは本当によくがんばっている。日本の高校生と朝高生を区別すること自体おかしいということが、現場を見ていたらわかる」 ボクシング部の指導教員らはそれを実践している。試合中は、互いの生徒のセコンドにつくこともある。強い仲間意識があるからだという。とくに同じ県の学校同士になると、普段から合同練習や合宿などを行って切磋琢磨している。 兵庫県立西宮香風高校ボクシング部監督の友野聡一さんは、神戸朝鮮高級学校ボクシング部との絆を、日ごろから大切にしている。昨年9月には在日朝鮮学生中央体育大会ボクシング競技を神戸朝高で初開催するため、勤務先の高校のリングを無償で貸し出し、大会運営にも尽力した。 友野さんによると、「全国大会」では同じ県の代表選手たちが試合前に一緒に練習する。ボクシングでは当たり前のことだという。生徒たちに自分たちと朝高生を「分ける意識」は、まったくないそうだ。だから、「今回の問題は『それはおかしい』の一言につきる。結局は朝鮮学校つぶしなのかと感じてしまう」という。 世論喚起し扉開く 高体連は、現在も加盟資格を学校教育法上の1条校に限定している。しかし、「ある事件」を機に高体連主催大会への参加資格は、朝鮮学校を含む各種学校、専修学校在籍の選手にまで広がった。 大阪朝鮮高級学校女子バレーボール部は1990年5月に府高体連主催の春季大会に出場。1次予選を勝ち抜いたが、「参加受け付けは勘違い」「勝ち抜いても『全国大会』に出られないことを知らなかった」「受け付けたことが『ミス』だった」などの理由で、府高体連側に大会途中での「辞退」を求められた。 この対応に在日同胞はもちろん、広範な日本市民から非難の声が上がった。この「事件」を機に、朝鮮学校の高体連加盟、「全国大会」参加を求める幅広い運動が展開され、活発な要請も行われた。 次第に世論は高まり、91年3月にまず日本高等学校野球連盟(高野連)が甲子園への道を開いた。 さらに高体連は93年5月の理事会で、朝鮮学校を含む各種、専修学校の「全国」高等学校体育大会(インターハイ)への参加を翌94年から特例として認めた。その後、96年までに高体連主催のすべての競技大会への参加が認められた。 文部科学省所管の高体連が朝高生の「全国大会」出場を認めたことは、朝高生が日本の高校生たちと変わりのない「同じ高校生」と認めたからだ。 朝高ボクサーの姿 「全国大会」の現場では毎回、朝・日生徒同士、教員同士の熱い出会いと交流が繰り広げられ、そこから友情という太い幹が育っている。 大会に出場する朝高生たちは、会場の温かい雰囲気と、「高校無償化」から朝鮮学校を除外しようとする政府の方針との間に温度差を感じている。 「高校無償化」問題が騒がれるなか、先日行われた「全国」高等学校選抜ボクシング大会(3月22〜25日、群馬県)には5人の朝高生が出場した。 ライトフライ級で銀メダルを獲得した王賢吾選手(神戸朝高2年)は、朝鮮学校への「高校無償化」適用に反対する人たちから学校にカッターナイフが送られてきたと話しながら、「自分にできることと言えばボクシングしかないが、その姿を見て、朝高生に対する見方が少しでも変わってくれたらうれしい」と語った。 朴志亨選手(東京朝高2年、ウェルター級銅メダリスト)も、「勝ち上がれば周りは注目し、日本社会に朝高生の姿をどんどんアピールできる。同胞たちもそこから勇気をもらったと言ってくれる」と手応えを感じていた。 自身の姿を通じ、「高校無償化」問題解決の扉を開こうと考える朝高ボクサーたち。日本の高校生は、そんな朝高ボクサーの姿を見ながら、「自分の住む社会に対する見方、考え方を養っている」(友野さん)という。(李東浩記者) [朝鮮新報 2010.4.2] |