親子で楽しいお弁当作り 鳥取県境港市 梁炳植さん宅 |
好きな朝鮮料理、トックとチヂミ 鳥取県の同胞社会では、ここ数年、若い世代が中心となり土曜児童教室を開講し、朝鮮大学校(東京・小平市)教育学部と文学歴史学部の学生たちによるインターネット・ウリマル(朝鮮語)教室「ナルゲ」を導入、日本人教育関係者らとともに在日朝鮮学生美術展を開催するなど、子どもたちを対象にした民族教育に力を注いでいる。30代をメインに年4回ほど開かれている同胞家族の親ぼく会「トトリ会」にも参加している鳥取青商会・民族文化部担当、梁炳植さん(38)宅を訪れ、子どもたちに民族の文化を伝えようとする努力の一端に触れた。
それぞれの役割
鳥取県境港市。梁さん宅では、朝から妻の朴庚実さん(34)、長女の瑛華さん(12)、長男の潤星くん(10)、次女の梨華ちゃん(6)がキッチンに立ち、にぎやかに会話を弾ませながら手を動かしていた。「みんなで力を合わせてお弁当を作る」という。 ボウルに卵を割り、手際よく箸でかきまぜているのは瑛華さん。 慣れた手つきでしょうゆをさっと回し入れ、熱したフライパンにジュッと流し込んだ。 「料理は好き。5年生くらいからするようになった。でも、片付けはあまり好きじゃない…」 そう言いながら、フライパン返しを使って器用に卵を巻いていく。 一方、潤星くんは、調理台に並べられた、かまぼこ、卵焼き、きゅうり、ほうれん草、さつま揚げをこっそりとつまみ食い。 「僕は食べるの専門。料理はあんまり得意じゃない」と言いながら、オンマ(母親)に手伝ってもらってはじめての海苔巻にチャレンジした。
「海苔の上にご飯を乗せて」と庚実さん。息子の手元を見ながら「きれいに広げたら上に具を並べてね。手前の方から巻いていって。具が落ちないように抑えながら…」と指示を出す。おぼつかない様子に、少し近づき手を添えた。
「うまい、うまい…その調子…」 どの子も作業を進めるときの表情は真剣そのもの。 末っ子の梨華ちゃんは、気分が乗らないのかしきりに行ったり来たりしている。担当はチヂミだという。 ボウルに何を入れるのかと訊ねると、「ホットケーキの粉とね、にらと、にんじんと、たまねぎ」とのこと。 庚実さんが笑いながら「ホットケーキの粉じゃなくて、チヂミの素でしょ」と訂正した。 前日、ホットケーキを7枚も焼いて、「ひっくりかえせるんだよ!」と自信たっぷりの梨華ちゃんだったが、残念ながら、チヂミはホットケーキに比べて薄いので、1人ではうまく返せなかった。オンマに手伝ってもらって、おいしそうなチヂミが焼きあがった。 潤星くんがきれいに盛り付けて、お弁当は完成した。 家庭の民族教育
山陰地方には朝鮮学校がないため、子どもたちは日本の学校に通っている。 家にはハラボジ(祖父)、ハルモニ(祖母)が同居していて、年に4回祭祀がある。毎日の朝食と火曜日の夕食を全員そろって食べるのが一家のルールだ。 子どもたちに好きな食べ物を聞いてみると、瑛華さんと潤星くんはハンバーグとから揚げ、梨華ちゃんは赤飯という。逆に嫌いな食べ物は、コーン、あんこ(瑛華)、タコ、イカ、エビ(潤星)、いちご(梨華)。 朝鮮料理では、トックとじゃがいものチヂミが人気があった。 家の中には大きな朝鮮の地図が掲げられ、部屋には正月や祭祀のときに写した民族衣装姿の集合写真が飾られていた。玄関先には小さな子どもの背丈ほどもあるトルハルバン(=済州島にある石像)も置かれている。
境港市で育った祖父は、東京の朝鮮大学校へ入学して朝鮮語を学んだ。孫たちにはいつも朝鮮語で話しかけていて、同じく朝大卒業生である息子夫婦には「学校が近くにないから、朝鮮語は家で教えなければ」と口をすっぱくして語るという。
しかし、3人の子どもたちに家庭で朝鮮語を教えようとしてもなかなか思い通りにならないと庚実さんは考える。 子どもたちは週に1回、車で30分かかる米子に出かけていき、鳥取青商会の任国主幹事長から朝鮮語を学んでいる。 「冠婚葬祭や歳時風俗を通じて民族衣装を身にまとい、毎日の食事を通して少しずつ朝鮮の文化を伝えていく。そして、日常的にあいさつをきちんとすること、同胞と会うときはもちろん朝鮮語で、というのが、わが家の民族教育かな…」と庚実さんは話していた。(金潤順記者) [朝鮮新報 2010.6.4] |