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そこが知りたいQ&A−北南関係冷却化の見方があるが?

李明博政権が強硬路線に傾倒、地方選直前 支持率低下に危機感

 北南関係が極端な冷却状態に陥りそうな気配だ。南では、西海で起きた艦船沈没事故を北と結びつけようとする政権の思惑が取りざたされている。朝鮮人民軍の潜水艇や半潜水艇が発射した魚雷によって艦船が沈んだという「北関連説」がメデイアで流され、大統領が「断固たる対応」を公言している。一方、北側は南の対決路線に対抗措置を講じる段階に移行し、金剛山にある南当局の資産を没収した。北南協力事業の象徴であった金剛山観光を「新たな事業者」によって始めるとしている。

 Q 現在、艦船沈没の原因に関する調査が行われている。北側は事故への関与を否定したが、南側はどのような態度をとっているのか。

 A 最終的な調査結果が出るまでは、当然のことながら沈没原因に関する断定的な発言はできない。しかし政府や与党関係者らは「北関連説」に沿った主張を繰り返している。

 北は南で意図的に流布されている「北関連説」を危機に瀕した政権の策略だと主張している。

 17日に発表された軍事論評員の記事は、証拠もないままに艦船沈没を北と結びつけ、いわゆる「安保」問題を争点化しようとする政権の思惑を指摘している。沈没事故直後から李明博政権の支持率は急落した。南では6月2日に地方選挙が行われるが、与党が敗北を喫すれば保守陣営が分裂し、政権のレームダック化が加速すると見られている。もしも艦船沈没問題で北への敵対心を煽る状況が生まれれば、不利な選挙情勢も逆転させ、内紛が絶えない保守陣営を結束させることができるということだ。

 Q 権力維持のためなら北南関係を破綻させてもかまわないということか。

 A 李明博政権は内外の非難を無視して北との対決路線を推し進めてきた。同じ民族を敵視する時代錯誤の政策に固執した結果、とうとう荒唐無稽な「北関連説」を持ち出さざるをえない状況に追い込まれたと見ることもできる。

 また南の軍部は朝米間で浮上した平和協定締結問題が進展するのを望んでいない。艦船沈没によって南の「安保」問題が焦点となり、朝米接近を止めて南と米国の同盟強化をアピールする状況が生まれれば軍部にとって好都合だ。

 Q 昨年までは、北南関係の改善を目指す動きがあった。北の立場も変化したのか。

 A 昨年8月、金大中元大統領の逝去に際し特使弔慰訪問団をソウルに派遣、李明博大統領との面会を実現させるなど、北側は関係改善のため積極的に動いた。その後、第三国で北南の非公式接触も行われた。しかし結果的には、南が北と一度取り交わした合意を反故にし、対決路線へと突き進んだために関係はさらに悪化した。

 今年に入り、北の「急変事態」に備える「非常統治計画」の存在が、新聞報道を通じて明らかになった。南の統一部、国家情報院が中心となり、昨年の秋から年末にかけて極秘に作成されたという。関係改善に関する北側の提案に対して、南側が不誠実な対応をしていた時期と重なる。

 「北の体制崩壊」を想定した「計画」の存在を確認した北側は、従来にない強硬姿勢を示した。新聞報道があった直後に国防委員会がスポークスマン声明を発表(1月15日)、「報復聖戦の開始」を宣言した。この声明以降、北は南の対決姿勢に対して厳しい態度で臨むようになる。艦船沈没の「北関連説」を否定した軍事評論員の記事では、昨年8月以降、国内メデイアに登場することのなかった「逆徒」という表現を使い李明博大統領を名指しで非難した。

 Q 李明博政権は、北との関係では「原則」を譲ることなく「待ちの戦略」に徹すると説明してきた。

 A 金剛山にある南当局の資産没収など、最近北側が講じた措置を見ると、対南関係でこれまでと一線を画する政策判断が下されたようだ。対決路線を追求する南当局に対して「民族の和解と交流」を訴える段階は過ぎ、具体的な行動措置をとっている。金剛山観光と関連しては、「過去10年間、民族の関心事であった観光ルートが李明博政権によって永久に閉ざされることになった」(23日、名勝地総合開発指導局スポークスマン談話)と述べている。

 李明博政権は米国とともに圧力をかけ続ければ、北が「屈服」すると考えたようだが、金剛山観光問題での対応を見るかぎり、いくら待っても政権が期待するような「変化」は起きないだろう。

 Q 北南関係の冷却化が平和会談構想の実現や6者会談再開に与える影響は。

 A 李明博政権が艦船沈没事故を朝米対話や6者会談再開問題と絡めて、事態を複雑化させる可能性はある。しかし朝鮮半島の軍事的緊張を高めるような事態に対する米国や中国の反応は予断を許さない。

 「待ちの戦略」は、事実上、破たんしている。現状では、昨年来の情勢変化を見誤り、対北関係で政策的矛盾に陥った李明博政権の方が守勢に立たされている。

 北側は国防委員会スポークスマン声明を発表した1月の時点で、すでに警鐘を鳴らしていた。「南当局は自らの反北行為について謝罪しないかぎり、北南関係を改善し、朝鮮半島の平和と安定を保証するために、今後開かれるすべての対話と交渉から除外されることを肝に銘じるべき」と指摘した。それが今、現実になりつつある。

 北側は艦船沈没への関与を否定した同じ日に、李明博政権が核問題の「一括妥結案」として出した「グランドバーゲン」を「一顧の価値もない」と一蹴した。本来、核問題を論じる資格も権限もないといわれてきた南当局は「一括妥結案」を明確に否定されたことで、北が関わる多国間外交に干渉する体面を失ったといえる。

 そして何よりも、艦船沈没の「北関連説」に傾倒する愚を犯した。大統領自身が北に対する「断固たる対応」を云々している。その言動は、平和と安定を求める国際社会の努力に逆行するものだ。しかし支持率低下に苦しむ政権は、対北強硬路線以外の選択肢を放棄し自らの退路を断たざるをえない状況に置かれている。(金志永記者)

[朝鮮新報 2010.4.28]