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愚劣の極み 法治主義を根本から破壊

グロテスクな金賢姫狂騒劇

 この夏、けっして見過ごすことのできない、忘れてはいけないグロテスクな狂騒劇が演じられた。7月20日から23日までの4日間の金賢姫来日だ。

 彼女は手ぬぐいで頬かぶりをするような格好をして現われ、たとえば田口八重子さんの兄の飯塚繁雄さんを「何十回となく『(八重子は)生きていますよ』と言う(だけ)」と嘆かせた。ただし国賓扱いを徹底的に享受し、寿司やフランス料理、焼肉、中国料理などを堪能し続けて中井洽拉致問題担当相の用意するビジネスジェット機で消えた。彼女が日本に残したものは壮大なゼロだ。後味がひどく悪い。

札束使い太鼓叩く

 彼女の離日から3日後の26日、同狂騒劇で撥の代わりにいわば札束を使い太鼓を叩いてはしゃいだ中井担当相が、あろうことか「(金賢姫来日には)なんら成果がなかった」と総括する。あれはもう終わったこと、と言いたいらしい。

 金賢姫は何をしにきたのか。「絶対に生きていますよ」とかぎりなく呪文めいた言葉を執ように繰り返しつつ、憶測を小出しにする。さらに「(拉致されたと言われる人たちの中に)見たことがあるような人がいる」などと、あらためて私≠売り込む。

 これらの思わせぶりの言動に、はっきりと重ねなくてはいけないのは次の点である。

 彼女は自身を87年11月の大韓航空機爆破事件の主犯だと言う。としたら韓国にいる、彼女が殺害した115人の家族たちの悲鳴にどう向き合っているのか。冷淡にそっぽを向く。

 金賢姫は彼らに背を向け、しかし彼女にはまったく関係のない日本事件にしゃしゃり出て、とてもやさしい天使の役を演じてみせる。その表裏の違いのすさまじさ、つまり酷薄こそが彼女の来日目的を語る。

 彼女の目的とは。ビジネスの展開、すなわちカネの取得だ。日本政府が、中井担当相は否定するけれど、金賢姫に渡した謝礼金は数千万円といわれる。カネの出所はどこか。官房機密費もしくは外交機密費だと痕跡を残さない。

 中井担当相は金賢姫のためにこんな場面設定もした。韓国の仁川と羽田の往復には朝日航洋のジェット機JA02AAをチャーターしてあげる(片道飛行時間=約3時間)。同チャーター料金は1時間あたり68万円。とすれば行きと帰りの2往復だから816万円。ほかにキープ料金などを支払ったとすれば1千万円近くになる。

 また、関東圏を遊覧させてあげたときのヘリコプターもやはり朝日航洋のJA6655だが、こちらのチャーター料金は1時間あたり約93万円である。

 金賢姫は東京の帝国ホテルの広さ約400uの超高級スイートルームでくつろいだ。その1泊料金は驚愕の105万円である。ほかに豪華飲食代やみやげ代など。これらは金賢姫に対してだけのサービスではない。彼女に随行してきた韓国の警護官や通訳など数人にも金賢姫とほぼ同様の対応をしたと思われる。

 こうした、金賢姫への謝礼金を除く経費総額は4千万円前後にのぼると推定される。

「遠くの拉致問題解決」

 かくして金賢姫は彼女の目的を達成した。

 しかし、そこで幕が閉じたわけではない。金賢姫狂騒劇が日本に植えたすさまじい禍根を明確に直視する必要がある。彼女の入国は次のような超法規的な措置による。

 出入国管理法の第5条は、「1年以上の懲役もしくは禁錮、またはこれらに相当する刑に処せられたことのある者」の入国を拒否する。金賢姫は韓国の法廷で大韓機事件について審理され90年3月に死刑の判決を受けている(当時の韓国政権の思惑によりただちに恩赦)。

 しかし千葉景子法相は金賢姫入国を拒否しなかった。なぜか。法務省は出入国管理法第5条の2項を指さす。法務大臣が相当と認めれば日本上陸を拒否しないとある。特例だ。その特例は7月1日から施行されたもの。したがって7月20日の金賢姫入国は法に触れていないと主張する。

 だが、中井担当相が金賢姫に来日を要請したのは昨秋から。数度にわたる。つまり彼らの目には初めから出入国管理法なんてなかったのだ。

 また、金賢姫は大韓機事件のとき、偽造・日本人パスポートを使ってもいる。偽造公文書行使である。国外にいるため時効は成立しない。とすれば警察は彼女が入国したらただちに事情聴取をする、もしくは逮捕しなければならない。しかし、警察も法律を無視して同作業を放棄した。

 政府が自ら法律を侮蔑し踏みにじる。法治主義を根本から否定し、民主主義の枠組みを破壊してみせる。この愚劣の極みの行為に乗って金賢姫は大金にまみれ再び踊り、故意に拉致問題の解決をいっそう遠のかせるという極悪犯罪をおかしたのだった。(野田峯雄・ジャーナリスト)

[朝鮮新報 2010.7.30]