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歌劇「紅楼夢」 米国のメディアが絶賛

ニューヨーク・タイムズ紙など

 ニューヨーク・タイムズ紙(7月28日付)およびインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙(7月29日付)に掲載された「ピバダ歌劇団」の歌劇「紅楼夢」に関する記事の要旨を紹介する(翻訳は本紙編集局)。

 金正日氏が創立、監督に携わったといわれる北朝鮮の「ピバダ歌劇団」の中国ツアーが、紛れもなくメディアの熱狂をもって迎えられた。

 5月2日、ピバダ歌劇団が国境都市・丹東に到着した写真がテレビで大々的に伝えられ、インターネットで大反響を呼んだ。中国のメディアは、歌劇団をまるでパパラッチのように追いかけ回し、団員たちの振る舞いが「明るく」かつ「友好的」で、ポーク、春雨シチュー、新鮮な果物などを食べたことについて報じた。そして、中国の古典小説「紅楼夢」のオペラ作品については「『アバター』以来の最大のヒット」と絶賛した。

ニューヨーク・タイムズ系のインターナショナル・ヘラルド・トリビューン7月29日付に掲載された、歌劇「紅楼夢」中国公演の紹介記事

 観客は、一様に熱狂した。4日間にわたる北京での開幕公演(金正日氏の訪中と重なる)のチケットはあっという間に売れ切れてしまったために、7月初旬にも追加公演が組まれることとなった。会場は、国家大劇院のオペラハウスだ。

 その間、198人で構成される歌劇団は、内モンゴルや福建省など多くの地方都市で前売り券を完売にさせ、劇場を観客で埋め尽くした。本来、1ヵ月の予定だったツアーは、2ヶ月半に延長され、7月18日の大連公演で締めくくった。

 北京で行われた数百人のファンと記者との懇談会で、成功の秘訣について問われた劇団員は、「指導者の指導と配慮の賜だ」と完結に答えた。

 実際に金正日氏は、2009年、朝中国交樹立60周年を記念してオペラを再創作することを決めた(旧作は、1961年の金日成主席の発案と指導による)。彼は、劇団の中国ツアーに先立ち、温家宝首相と席を共にした公演を含めて4回、本作品を観覧している。

 「歌劇団興業主の役割」というものは、金氏にとって何も新しいことではない。実は、「ピバダ」すなわち「血の海」というのは、彼が1971年に創作に関わったといわれる革命歌劇のタイトルである。金主席が、日本の残忍な朝鮮占領を題材に創作した物語を下地にしたこのオペラは大成功を収めたために、そのまま劇団の名称となり、自らが開拓した革命歌劇のスタイルとなった。

 「オペラの古めかしい様式を打ち壊す」ことを目的に創作された「血の海」式オペラは、朝鮮の伝統的なメロディや踊り、オペラをより大衆にとって親しみ易いものにするための「革命的な」諸要素を共に取り入れている。台本は韻文形式で書かれているので、歌手としては覚え易く歌い易い。レシタテーィブ(叙唱)はない。オーケストラは、「チュチェ思想」に基づいて編成されている。「パンチャン」と呼ばれるバック・コーラスは、ピット・ボックス(オーケストラ席)から舞台上の主人公たちの思想的・感情的な状態を強調する役割を果たす。

 金氏は、朝鮮人民は「世界の文化をもっと知るべきだ」と語ったと言われる。そこで、すでに平壌で50回上演され10万人近くの市民が観覧した「紅楼夢」のリバイバルに加えて、彼は、ロシアのオペラ「エフゲニー・オネーギン」の制作も指揮している。このチャイコフスキーの古典作品が最後に平壌で上演されたのは、1950年代のことであるが、生まれ変わったオペラが昨年の夏と今年の2月、朝ロ友好相互協力条約締結10周年を祝して平壌で上演されている。

 中国におけるオペラ公演の大成功は「紅楼夢」から始まった。曹雪芹が18世紀に書いたこの小説は、中国文化の試金石である。作品を読んでない人でも、あるいは83回に渡る(中国国内で放映された)連続テレビドラマ版を観た人なら、賈宝玉と林黛玉の儚い恋は、よく知っている。西側での「ロミオとジュリエット」と同じだ。

 北朝鮮で最も人気があるオペラはピバダ歌劇団による「花を売る乙女」である。本作品を映画化したものが、1970年代初めに中国各地で上映された。

 しかし、たとえこのような歴史的な要素が理由で「紅楼夢」のピバダ版が活力を取り戻したとしても、中国の古典を朝鮮語で聴きに中国の観客を劇場へと駆り立てたのは、結局は同作品の質の高さである。ピバダ式オペラは、朝鮮では慣れ親しまれているものと思われるが、このオペラ作品は、原作の悲劇的なラブストーリーを、質の高い歌唱力、非の打ち所のないアンサンブル舞踊、そして豪華な衣装と舞台装置でもって忠実に再現している。役者のほとんどは、金元均名称音楽大学や楽団の出身である。

 文化交流としては、今回の中国ツアーは文句なしの大成功だったようだ。一方、「北京日報」の文化評論家は、中国を代表する古典を征服したのは北朝鮮の歌劇団だったという事実を嘆いた。「わが国の最高クラスの監督が西洋のオペラ『トゥーランドット』で世界的に有名になれるのなら、なぜ彼らの中のひとりでも「紅楼夢」をすばらしいオペラにすることができないのか?」

 ピバダ歌劇団の団員は、しかしこうした現在の栄光に満足するすもりはない。彼らには、平壌に戻り中国のもうひとつの古典に取り組むことになっている。準備が整い次第、また中国縦断ツアーが組まれることは間違いなかろう。

[朝鮮新報 2010.8.6]