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地域の「保安官」目指す南、米戦略を率先

 フランスの月刊紙「ル・モンド・ディプロマティック」10月号に興味ある記事が掲載された。今年3月に沈没した「天安」号事件以来、北南間の緊張と対立を激化させている李明博政権が、中国の封じ込めを推し進める米国の北東アジア戦略を率先して遂行しているという内容である。

 溶岩がゆっくりと海に流れ込んだため、奇岩に敷き詰められた珍しい海岸とエメラルドグリーンの海を抱いた景勝地として、またシャーマニズム的な祭儀と死者を深く敬う精神性を宿した民俗性によって、済州島は2007年、ユネスコの世界遺産に登録され多くの観光客に愛されている。

 このような島でミサイル基地を建設する計画が進んでいると記事は指摘する。中国を睨む東シナ海のまさに理想的な要害として白羽の矢が立ったという。中国との関係を強化し、アジア経済共同体の構築を選挙公約に盛り込んだ日本の民主党は、先の衆議院選挙で大勝し政権の座に就いたが、日米間で合意されていた普天間飛行場移設問題でつまずき、鳩山内閣退陣という失態を演じた。これを目の当たりにした米国は、対中国政策の切り札としていっそう南朝鮮の重要性を認めるに至ったという。

「三日月包囲網」

 中国の膨張と朝鮮半島での緊張増大、日本の政治的混迷という状況のなか、米国の北東アジアならびに対中国戦略の要求を率先して果たそうとしているのが李明博大統領だと記事は指摘している。彼は就任直後から前任の2大統領が取った対米、対北政策を急反転させた。ブッシュ前大統領との会談で早々と狂牛病に汚染された米国産牛肉の輸入解禁を決め、この地域における南朝鮮の「新しい役割」を約束した。そして現在、ロッキード・マーティン社のハイテク技術を導入し、現代重工業に艦対地巡航ミサイルとソナーシステムを装備した駆逐艦を建造させ、6隻からなるミサイル艦隊の編成に執心しているとのことである。専門家は、この艦隊構想が実現すれば西太平洋での米国艦隊のプレゼンスを肩代わりすることも可能で、日本とともに米国の中国封じ込め政策の要になるだろうと指摘する。両社はまた、同様の構想をインドにも持ちかけることを2009年に表明している。

 中国はこのような状況を、米国による日本、南朝鮮、インドを動員した「三日月形(クロワッサン)包囲網」と見て警戒を強めている。そして、この包囲網の根拠地として浮上したのが済州島であった。

李大統領の忠誠心

 済州島の南、西帰浦の隣に位置する江汀という平穏な漁村に、そのミサイル艦隊の基地を建設しようとしているのだが、前任大統領らの時代にもこの計画は村民らの猛反対にあって2度も頓挫している。しかし、李明博大統領は今度こそこの計画を実行する固い決意を持っているようである。94%の住民が反対しているにもかかわらず、豊かな自然と名水で知られるこの小さな漁村を、対中国とアジアにおける米国の軍事的プレゼンスの象徴に造り変えようと彼は大いにイニシアチブを発揮しているとのこと。南の成熟した市民運動も、国防の御旗を振りかざす軍と政府の強行策に押し潰されようとしている。まさに、李明博大統領はこの地域における米国の「保安官」たらんとしている。

 普天間基地問題や中国包囲網の構築という米国の意志を考えると、『天安』号沈没事件にはまだ隠された真相があるように思える。前者において私たちは、日本政府の対米不在(?)外交と沖縄県民の怒りをあらためて目の当たりにしたが、次は李明博大統領の忠誠心によって安穏の地、済州島が第2の沖縄に変身する日が遠からず実現するやもしれない。そうなれば、有事の際にこのミサイル基地が最初の標的になるのは明らかである。

 彼は貧しい境遇から大企業のトップになり、大統領にまで登りつめた立志伝中の人物だと言われるが、6.15の民族的志向に背を向けただけでなく、済州島を沖縄化し米国のアジア戦略を先頭に立って遂行したキーパーソンとして、民族史にその名を刻むかもしれない。まったくもって由々しき事態である。(河在龍・朝鮮大学校外国語学部教授)

[朝鮮新報 2010.11.10]