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女声三部合唱のための組曲「海よ語れ 立待岬にて」

第1章「立待岬の海よ語っておくれ」

北国のきびしい風が
寒々とした山肌を容赦なくなぐる
はるかに広がる鉛色の海は
今日も言葉なくうねる

何十年たったであろうか
何十年すぎたであろうか
この地に血涙流しながら
切り立つ崖に

その汚れなき青春を投げすてたあなたたち
その最後の叫び響いたその日から

※資料:小樽新聞(1937年3月17日付)の小さな見出し−立待岬の身投げは朝鮮酌婦」と20歳、21歳の朝鮮女性2名の身投げを報じた。

北国の身を切るような風が岬の岩肌を
削るように吹き抜ける
はるかに広がる鉛色の海は
今日も言葉なくうねる

月日が経とうとも、歳月が経とうとも変わりなくおまえはうねる
当時を知る人は亡くなり そんな事は知らないと言っても
おまえは きっと忘れはしまい
立待岬の海よ語っておくれ
だまされ、おどかされ、連れてこられたあなたたち
おまえのふところへ身を投げるしかなかった
あなたたちの身の上を、その無念を
語っておくれ

第2章「それしか手だてがなかったのか」

言葉もわからない 日本のどこにいるのかもわからない
山も森も見知らぬ地、町も人も見知らぬ地
連れてこられたその日から 地獄!

※証言「大阪の紡績工場に就職させてやるとだまされ、17、18歳の朝鮮の娘がたくさん連れてこられその日から客をとらされていた」

※証言「日本が戦争を広げるにつれてここには朝鮮の娘たちがふえていった。なかには14、15歳の幼い顔の娘たちもいた」

だまされ おどかされ さからうとなぐられ
そんなあなたたちに…
国をうばわれ故郷もうばわれ
オモニもアボジも兄弟もうばわれ
そんなあなたたちになんの手だてがあっただろうか
そんなあなたたちに獣の手ふりきり
その白雪のような純潔守る
なんの手だてがあっただろうか

毎日のようにその清らかな体むさぼられる
そんな辱しめから逃げるなんの手だてがあっただろうか
幼い蕾のような胸に秘めた夢も希望も
故郷での思い出も、そして一日たりとも忘れない
オモニの温もりも
その辱しめから逃げ死をえらぶ覚悟を
踏みとどませらせる事ができなかったのか

※証言「私も函館山の穴間海岸の岩に架けられた吊り橋から朝鮮の女性が3人飛び込んだ事件を覚えています」

第3章「鳴咽とともに」

はてしない水平線のかなたに
花咲く故郷の丘を描き
はてしない闇の波間に
オモニの顔、アボジの顔、家族の笑顔思い
思い、描き、また思い、また描き
血にじむまでくちびるかみしめ
白いチマの裾しっかとかぶり
鳴咽と共にこの岬からこの崖から
声にならない声ふりしぼり オモニ!アボジ!
次々と散った

※証言「1943年頃にはこの堀川町、弁天町に朝鮮の女性が200人以上いました。娘たちの一部は逃げ出し函館山の立待岬から何人かずつ身を投げたと聞きました。その後、あまりにも身投げが続くので地方新聞には報道管制がしかれました」

第4章「忘れまい」

陽が暮れると今も聞こえてくるという
「オモニ!アボジ!」
暗い波の底から聞こえてくるという
「オモニ!アボジ!」
はげしくうちよせる波の中から
はげしく崖にぶつかるしぶきの中から
「オモニ!アボジ!」

どうして忘れられようか「いや!忘れてはならない!」
いまもさまようあなたたちの魂
いまもただよう血涙にじむ鳴咽の声
声にならない声ふりしぼりこの海に沈んだ
あなたたちを…「忘れない」

岬の海よ語れ 岬の波よ語れ
故郷に連なるおまえの波間から
故郷に帰れなかったあなたたちの声
「故郷に帰りたい、オモニに会いたい」

忘れまい 立待岬の海よ 立待岬の波よ
けっして忘れまい!あなたたちを…
けっして忘れまい!あなたたちを…

(詩・金斗権、構成・作曲 金学権)

[朝鮮新報 2010.12.13]