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惜別−学ぶことへの純粋な喜び

 朝鮮大学校の工学部長などを歴任された康忠煕先生が3月17日、死去された。お通夜、葬儀には各地から教え子を含む500人を超ええる参列者が集い、故人を偲んでいた。

 筆者が康先生に初めてお目にかかったのは、同人誌「丹青」が創刊されたときだから、7年前。「居酒屋での一杯や山歩き、碁会もいいが、なにかやろうよ」という先生の発案で、一線を退いた朝大の元教授や在日の知識人たちの勉強会がはじまった頃だ。

 世話人を務めた康先生の周りには、人垣が絶えず、回を重ねるごとに輪が広がっていった。「メンバーがそれぞれ好きなテーマで研究し、喧々囂々と語り合ってきた。喋りっ放しじゃもったいないということで、本作りにも挑戦したんだよ」と飄々と語られていた。文系、理系の垣根を超えた老学者たちの学ぶことへの純粋な喜び。定年後の人生の第2ステージは人が羨むほど充実したものだった。

 「金をかけずに本作りをしようというのが、われわれの合い言葉。勉強会も自治体の会館を利用し、編集会議も喫茶店で開く。勉強会に3時間ほど熱中した後は、駅前の居酒屋で一杯。これがまたいいんだ」と破顔一笑されていた。

 その一方で、金属工学の専門家として、最期まで研究意欲は衰えることはなかった。最後の論考となった「古代朝鮮の製鉄とその技術」(「丹青7号」)では、製鉄の起源、朝鮮・中国の製鉄技術の特徴を図表、写真を添えて多面的に論じられた。

 「学ぶということは何歳になっても人に幸せをもたらしてくれる」。あるとき、ふともらされた先生の言葉をしみじみとかみ締めた。(粉)

[朝鮮新報 2010.4.9]