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冷たい春

 今年の冬は寒かった。春一番が吹き、桜も満開。日に日に散り急ぐ花びらが舞う景色は紛れもなく春なのに、その風は驚くほど冷たい。まさかダウンジャケットにマフラーという出で立ちで桜を眺めることになるなんて…。地球はやはり変わってしまったんだなぁと実感する。

 去年、引っ越したのを機に自転車通勤からバスときどき、徒歩通勤に変わった。お腹周りにベッタリとはりついた脂肪の燃焼に効果があることを秘かに期待しつつ、週2回、1時間足らずのウォーキングを楽しんでいる。

 下町の古い家が軒を連ねる道端には、それぞれの家庭が丹精をこめて咲かせた季節の花々や小さな緑が並び、塞ぎがちになる心を和ませてくれる。早朝の陽射しを浴びて洗濯物が気持ちよさそうに風に揺れている。

 昔、ある女優さんが、お天気のいい日にあちらこちらのベランダに干された布団を見ると、とても幸せな気持ちになるとテレビで話していたのを思い出す。

 冬の厳しい寒さの後にはホンワカと暖かい春の陽気が、夏のうだるような暑さの後にはヒンヤリと身体の火照りを冷ましてくれる秋の風が必ずやって来るものだと思っていた。当たり前のように繰り返されてきた自然の営みが崩れようとしている、そんな危機感に心揺れる春の日−。

 便利で快適な生活を追い求め、ひたすら走り続けている間に季節の二極化が進み、夏と冬しかなくなってしまった、なんて日が来ないようにと願いながら、「大事な物は目に見えない」−サンテグジュペリの言葉を胸の中で反芻している。(鄭潤心、会社員)

[朝鮮新報 2010.4.23]