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暮らしの香り

 去年の暮れから習い事を始めた。週に一回とゆっくりのペースだが、この時間だけはまるで自分に与えられたご褒美であるかのように、すべてを忘れ、ただ自分のためだけに時間を費やしている。

 私は昔から習い事をよくさせてもらった。大人になってから母に、「習ったものは何ひとつ役に立たなかったね」と言われたことがある。たしかに私はバレリーナにも声楽家にもなれなかったが、役に立たなかったとはまったく思っていない。多くの学びが蓄積され、感受性を育み、今の私が形成されたと思っているからだ。

 私にとって趣味や習い事は香りのようなもの。目にこそ見えないが、なくてはならないとても大切なものだ。いくら高価でも香りがない食べ物はおいしく感じられない。それと同じでアロマのない人生は実に味気ないと思う。初夏を待ちわびる湿った空気の香り、一粒一粒がピンと背すじを伸ばした炊きたてご飯の香り、子どもを抱いた時にキュンと胸をノックするあの柔らかくて甘い香り…。このような日常に漂う香りは、趣味や学びを楽しんでこそ感じることができる。暮らしの香りは私の人生を豊かにしてくれるのだ。

 最近、還暦を過ぎた母が、ジャズダンスを習いたいと言いだした。長い旅路はまだまだこれからが本番。大いに暮らしの香りを味わって人生を謳歌してもらいたい。

 一度きりの人生、どうせ同じならおいしい人生がいいに決まっている。豊かさはお金で買えるものではなく、自分の心が決めるのだから。(李順華、主婦)

[朝鮮新報 2010.6.11]