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若きアーティストたち(77)

舞台でアピールしたい「在日」の存在、幅広い知識で表現力に磨きを

劇団「タルオルム」 姜愛淑さん

 もともとオモニがウリハッキョの教員を務めていたため、家に帰っても一人だった姜さんにとって、学校は幼い頃から遊び場だった。そんなとき、オモニと生徒たちとの温かいやり取りを見ながら、「先生っていいな」と、思うようになっていった。

 本を読むのが好きで、一番好きな授業は国語(朝鮮語)だった。いつかは地元の京都中高で国語の教員になろうと朝鮮大学校に入学した。

 初・中級部の頃は舞踊部、高級部では陸上部に所属し青春の汗を流した。朝大文学部(当時)に入学後は、とくに部活をする気はなかった。

 ある日、寄宿舎の隣部屋に住んでいる演劇部の先輩に、部員数が足りないから「見学だけでもいいので来てほしい」と頼まれた。「見にいくだけなら」と軽い気持ちで足を運んだ。「見るだけ」という約束が、その日から練習に参加することになり、気づいたときには部員のような存在になっていた。仲のいい先輩の頼みでもあったため、何となくやめられない雰囲気になってしまっていた。

 そうして始まった演劇活動だったが、「初めて舞台に立ちスポットライトを全身に浴びた瞬間の快感は、今でも忘れられない」と、思い出にひたりながら笑顔で語る姜さん。知らず知らずのうちに演劇の世界へとはまっていったという。

 卒業後は京都の初級学校で教べんをとりながら、その間も演劇への思いは色あせることがなかった。

「タルオルム」の劇で熱演する姜さん

 とにかく演技がしたくて、あらゆる日本の劇団を探し回った。そしてやっと探しあてたある劇団に入団しようと思っていた矢先、朝鮮新報のイベント紹介欄に掲載されていた、大阪の在日同胞劇団「プルナ2000」の公演「キッ―DNA」(02年)が上演されることを知った。大阪に在日の劇団があるという驚きと、何よりも「ウリマルで演劇ができる」という驚き。

 公演を観覧したあと、責任者に駆け寄り、頼み込んで即座に入団。05年、劇団「タルオルム」の旗揚げ公演と同時に同劇団へ移籍。現在はアクセサリーショップで働きながら、週1回の練習に励んでいる。

 「演劇の魅力は、自分と向き合えること」と話す。役と自分、作品の時代背景を照らし合わせながら自分という存在を常に考え続ける日々。

 今まで民族心の強い両親の下、同胞たちに囲まれた環境のなかで育ってきたため、「在日」の厳しい現実について問題意識を持ったことがなかった。在日の歴史をテーマにした作品が多い中で、いざ演じようと思っても、自分自身がよく理解できず、演じることができないというジレンマに悩みもした。

 「表現力やしぐさ、表情の作り方など、演技力を磨いていくと同時に、政治、文化、歴史など幅広い知識、情報を集めて内容を深めなくてはいけない」と自らの課題について語る。

 観客のほとんどは同胞たちだが、1世と4、5世では同じ作品を見てもとらえ方が違うはず。守るべきもの、引き継いでいかなければいけないものを活かしながら、今の世代にも合った作品作りを目指している。

 難しい話を何時間も聞くより、臨場感あふれる舞台を直接観る方がよりリアルに感じとれるというのも演劇の魅力。

 「舞台に立つ自分を通して『在日』をより多くの同胞たちや日本の人々にアピールしていきたい。そのためならどこへでも飛んでいく」と瞳を輝かせた。(文と写真・尹梨奈)

※1978年生まれ。京都朝鮮第1初級学校、京都朝鮮中高級学校、朝鮮大学校文学部を卒業。05年、劇団「タルオルム」へ入団し、現在も活動中。

[朝鮮新報 2011.1.11]