六十年の歳月が
風のように過ぎて行きましたが
桃の花咲き誇る春の光が
新婚時代を思わせます
生きて別れ　死して別れ
人は老いへと急き立てられますが
悲しみは短く　楽しみ長き我が人生
国王の恩恵に感謝いたします
今宵は「木蘭詞」の歌声ひとしお楽しく
過ぎし日の　赤いチマの墨の色は
未だ消えずに残っております
二つに分かれ　再び合わさるは
まさに　私たち二人の姿
故にこの一組の瓢箪を
子や孫たちに残してあげましょう

１８３６年２月

※老いた父の代わりに男装し出征した木蘭が戦功を挙げ、爵位を捨てて帰郷する、中国「木蘭従軍説話」

（「私たちの古詩」８６年・チョンア出版社）

　チョン・ヤギョン（１７６２〜１８３６）

　朝鮮王朝末期の文臣・大学者。号は「茶山」「俟菴」。朝鮮実学を集大成し、水原華城建築時は滑車を使った擧重機を考案。著書に「與猶堂全書」がある。１５歳で結婚し、結婚６０年目の回婚日を記念してこの詩を書いた。天主教迫害の為に起きた「辛酉邪獄（１８０１年）」による１９年間の流刑中、彼は妻から送られた紅い婚礼着を切り分け、墨で息子たちに遺す訓戒を記した本を作り、娘には屏風絵を描いて贈ったという。この詩は、回婚礼の朝に亡くなった彼の最後の詩となった。（選訳・金栞花）

［朝鮮新報 2011.3.15］