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「魂のうたごえ」

 「グラシアス・ア・ラ・ビダ(人生よありがとう) あなたがくれた/耳をすませばききわけられる/夜と昼とを ハンマーの音を/犬の声 そぼふる雨を/いとしいあなたの 声のひびきを」

 ビオレッタ・パラの歌を初めて聞いたとき、魂が震えた。

 「私は、拍手を得るためにギターを手にするのではありません。私は、確かなことと偽りのちがいをうたうのです。でなければ、私は、うたいません」。1920年代、チリのイバニェス独裁政権に異を唱え、不正と搾取を告発しながら、民衆とともに生の悲哀や喜びを歌い続けた女性歌手。貧しい家に生まれ、野良仕事やサーカスの巡業を経て、酒場や盛り場で歌い始める。自らも酒に溺れ、つらい愛の痛手に何度も苦しみながらも、奔放に歌い、踊り散らしながら屈託のない笑顔にあふれ、自らの生を謳歌する姿も垣間見える。

 パラが自死を遂げたのち、1960年代の民主化闘争の時代、〈新しい歌〉運動が始まり、パラの歌が抵抗歌としてチリの民衆たちに歌い継がれた。反政府抗議行動の際に街を埋め尽くす人びとが耳を焦がす熱気とともにパラの歌を大合唱する。その光景に鳥肌が立った。豊穣な文化と抵抗の可能性が見えたからだ。

 パラが歌うやさしく豊かな曲調、悲しみの底に流れるゆるぎない決意をたたえた歌に暗い時代を生き抜き、闘う力を与えられる。「苦しいことが増すばかりでは/一杯やらずにいられようか!」(李杏 理、大学院生、東京都在住)

[朝鮮新報 2011.1.14]