特集//新年を迎え心新たにそれぞれの「今年」
多くの人が、心新たな一歩を踏み出す新年。1998年を迎え、それぞれ夢や希望に胸を膨らませている各界の在日同胞たちの元気な表情から、彼らの様々な「今年」を紹介する。
〇アボジ・オモニになります/子供は必ず朝鮮学校へ〇
神奈川県相模原市在住 オ・ソンジン(26)李清美(24)
結婚したのは昨年のこと。3年前、ともに朝銀神奈川・上大岡支店で働いていた頃、残業する機会が多く、夕食を取りながら色々な事を話し合った。「苦楽」をともにする中で自然に好意を寄せ合ってのゴールインだった。
現在、ソンジンさんは藤沢支店で渉外係長を勤める。退職した晴美さんは、大きなお腹を抱えながらの専業主婦だ。
「いつも笑いにあふれ、自然に人が集まる明るい家庭を築きたい」と話すソンジンさん。子供ができたと知ったときは「大喜びだった」そうだ。
出産予定日は2月28日。希望はともに女の子だという2人は、「子供は必ず朝鮮学校に入れます。自分たちもそうだったし、立派な朝鮮人に育ってほしいですからね」と声を揃える。
「早くアッパ、オンマと呼ばれたいね」と、その日が来るのがとても待ち遠しそうだ。
〇メダルに挑戦/「金」目指し気迫のファイト〇
大坂朝高2年ボクシング部 白永鉄(17)
昨年8月、2年生ながら初めてインターハイに出場するも、1回戦で敗退した。その同じ大会で、3年生の先輩が大阪朝高初のメダルを獲得した。
「嬉しかった。でもリングに上がっている以上、自分が勝ち抜かなければ」。
昨年11月の近畿大会でフェザー級を制し、3月に開かれる全国高等学校ボクシング選抜大会の出場権を獲得。今は課題である防御面のテクニック向上に努めながら、雪辱に燃える。
ボクシングのスタイルは、右利きのインファイター。「今年は寅年にちなんで、気迫あるファイトを見せる。まずは選抜で金メダルを取りたい。そして最大の目標は、夏のインターハイで同級生4人が揃ってメダルを取ることです」
〇春からウリハッキョに/夢はサッカー選手〇
茨城県北茨城市在住 盧成奎(6)
4月、茨城朝鮮初中高級学校(水戸市)の初級部に入学するが、自宅から学校までは1時間以上もかかり体力的にも負担が大きいため、寄宿舎に入って集団生活を送ることになる。
中級部から朝鮮学校に編入したというオモニの李順子さん(35)は、小学校時代に「朝鮮人であることを隠そうとする自分が嫌いだった」記憶がある。同じ思いを子供にはさせたくないとの思いから、「朝鮮人としての自信と誇りを育んでほしい」と考え、すでに長男の成健君(初4)と長女の成愛さん(初3)を寄宿舎に送っているが、「正直言って、家の中から子供の声が消えるのは寂しい。この子も、毎晩のように泣くんじゃないかしら」と、少し心配顔だ。
しかし当の本人は、そんなオモニを尻目に、「兄ちゃんも姉ちゃんもいるから平気だよ。ウリハッキョに入学したら、宿題とサッカーをやりたい。もう少ししたら、制服を作ってもらえるんだ。ランドセルはまだ買ってもらってない」などと屈託がない。
兄と姉のいる朝鮮学校が大好きで、運動場では我が者顔で遊び回る。生来ひょうきんな性格で教員や生徒たちにも可愛がられ、寄宿舎のお風呂も「体験」済みだ。
「大きくなったらサッカー選手になりたい。いっぱい練習しなくちゃ」と、大人っぽい表情を覗かせた。
〇今年も元気です/願いは祖国統一だけ〇
女性同盟東京・葛飾柴又分会顧問 金吉徳(93)
昨年末、年の瀬の多忙な時期にもかかわらず、東京都内に住む息子や娘、親戚が集まり93歳の誕生日を祝った。ジャズのリズムに合わせて踊り出すなど茶目っけたっぷりの吉徳さんは、孫や曾孫の人気者だ。
朝鮮語で書かれた書籍や朝鮮新報を読むのが日課で、愛読書は金日成主席の回顧録。今は、主席の革命活動を描いた長編小説「永生」に取り組んでいる。1945年の祖国解放以来、1日も欠かさず日記をつけているほか、最近は朝のラジオ体操にも元気に出かけるという。
1904年、全羅南道に生まれ、24歳の時、夫とともに渡日。5男1女を一心に育て、解放を迎えると同時に在日朝鮮女性運動に飛び込んだ。以来、女性同盟東京・葛飾支部の副委員長や本田(現・立石)分会長などを歴任し、今でも女性同盟の集いがあれば喜々として出かけておしゃべりを楽しんでいる。
昨年11月には、女性同盟結成50周年を記念し東京で行われたフェスティバルで、1世女性らの合唱に出演した。
つねに政治の動向に関心を払い、情勢を自分なりにあれこれ分析することが何よりの楽しみで、それが元気の「素」にもなっているようだ。
「私の願いは祖国統一だけ。統一が実現したら、その時は故郷にも行ってみたい」
〇もうすぐ成人式/内面的にも更なる磨きを〇
兵庫朝鮮歌舞団舞踊手 李明福(20)
舞踊を続けることは、幼い頃からの夢だった。神戸朝高2年の時に起きた阪神・淡路大震災で、同胞の助け合いや総聯の救援活動を目の当たりにし、「地域の同胞らが開く大小様々な催しに花を添える歌舞団の一員として、同胞社会のつながりを守るために役立ちたいとの思いを強めた」。
入団から2年。地域を巡りながら開く連日の公演は、ホールの舞台ばかりでなく学校の運動場や教室、屋外の広場と場所を選ばない。観客に手が届くほどの近さで踊ることもある。
練習のために、帰宅が深夜になることも珍しくない。しかし、明るく柔和な笑顔は、そういったハードな生活を感じさせない。
「人々を祝福し、励まし、勇気づける私たちの仕事では、観客と語り合うような踊りをすること、明るい表情を絶やさないことが大事。そのために、技術的にも内面的にも、自分自身をさらに磨いていきたい」
〇東海に人権協会/中身ある仕事したい〇
愛知県在住社会保険労務士 金淳坤(32)
労務管理の顧問としての仕事を通じ、福利厚生を重視する企業が増えていると感じている。
「日本経済が転換期を迎え、以前にも増して経営者の理念が問われているからだと思う。福利厚生は直接的に利潤を生む部門ではないから、経営者の考え方がよく反映されるんです」
常に、自分の仕事が社会との関係でどういう意味を持つのか、どんな役割を果たせるかを考え、その理念に沿って動くことがやがて利益を生む。今はそんな、「ホンモノの時代」だと考えている。ちなみに自分の役割は、「経営者と従業員との関係を良好に保つための潤滑油」だ。
今年に予定されている、在日朝鮮人人権協会東海地方本部の結成準備に携わっている。「同胞の悩みに耳を傾ける法律家は日本人にもいる。新たな権利の獲得など、同胞法律家ならではの役割を探るべき。やるからには、中身のある仕事をしたい」
〇結婚します/朝青で出会い、愛育む〇
朝青西東京本部管下 金伸徳(27)崔賢雅(24)
2人の出会いは、朝青の活動を通じてのこと。小学校から日本学校に通っていた伸徳さんは5年前、大学4年の時に西東京本部の朝青員に誘われ、初めてサッカーの試合に出場した。そこでマネージャーの賢雅さんと出会うことになる。
その時は「何とも感じなかった」という2人の間には、伸徳さんのオーストラリア留学による3年間の「空白」の時期さえある。しかし、「気が向いた時に」デートを重ねるうちに、いつしかなくてはならない存在になっていったという。
2人が結婚を決めたのは、昨年10月の賢雅さんの誕生日。互いに好意を持っていたことは言うまでもなく、友達としては最高の仲だったこともあり、それまでと同様「普通の会話の中で、無理なく普通に」決まった。
伸徳さんは「あの時、朝青のサッカーの試合に参加したのは本当にラッキーだった。同胞の女性を結婚相手に選んだと言って両親が喜んでくれたのが、何よりも嬉しい。彼女に会えたことで改めて、結婚するならやはり同胞でなければと思うことができた」と語る。
挙式は6月。「あったかくて楽しい、明るい家庭を築きたいですね」と口を揃えた。