投稿/差別の連鎖を断ちきるために 前田朗(東京造形大学助教授)
8月31日の北朝鮮の「人工衛星・ミサイル」打ち上げ問題は、米国、ロシア、中国が「衛星打ち上げ」と結論を出したことで、国際的にはひとまず決着した。
ところが、日本だけは異様な対応を続けている。日本政府は早くも9月1日に「ミサイル」説に立って、「厳重抗議、食糧支援の見合わせ」などの制裁方針を出した。その後「ミサイル」説の誤りが判明した段階で、当然方針を見直す必要が生じたのに、「衛星でもわが国の安全に脅威」というこじつけで、北朝鮮非難を続けるとともに、これを口実として軍備強化の方針を素早く決定した。
北朝鮮の衛星は日本の安全に脅威という短絡的な論理に立つのなら、日本の衛星は北朝鮮の安全に脅威ということになる。対立と緊張をあおるだけだ。また事前通告がなかったことを非難の論拠にしているが、これまで中国などの打ち上げで日本が事前通告を求めたことは聞いたことがないし、日本の衛星打ち上げを北朝鮮に事前通告したこともないはずだ。日本政府の主張は相互主義を踏み外している。
さらに問題なのは、日本政府とメディアの興奮によって、またしても日本社会が朝鮮人に対する差別や人権侵害を引き起こしていることである。一部のメディアは北朝鮮へのひぼうと中傷にエネルギーを注ぎ、右翼は朝鮮総聯に対する攻撃を強めている。嫌がらせや脅迫の電話。朝鮮学校への落書き。朝鮮学校生徒に対する暴力や暴言。9月前半に生じた現象は人種差別による犯罪であるが、日本社会にはそうした認識もなければ自浄能力もないように見える。
朝鮮半島をめぐる政治的事件が起きると朝鮮人に対する攻撃を引き起こすことが日本社会の体質となっている。近年では1989年の「パチンコ疑惑」、1994年の「核疑惑」が想起される。こうした前科前歴を充分に承知していながら、日本政府は北朝鮮との緊張をあおり、メディアがこれを増幅させて、またしても事件を呼び起こしたのである。敵視、蔑視、非難、中傷の反復・継続によって、差別事件が連綿と再生産されている。この連鎖を断ち切ることが日本政府の責任であるにもかかわらず、日本政府の無策と無責任は終始一貫している。人種差別にひそかな喜びを感じる陰湿な社会とならないよう、事件への対処と見直しが必要である。