sinboj_hedline.gif (1986 バイト)

「出会い」/少年の主張京都府大会で府知事賞 京都中高中級部3年生南政岐さん


 第20回少年の主張京都府大会(9月27日、京都市)で、京都朝鮮中高級学校の中級部3年生、南政岐さんの「出会い」が府知事賞(最優秀賞)に選ばれた。同大会には、府下の中学生から1341編の作品が寄せられ、入選者13人がそれぞれの「主張」を発表した。南さんは府代表として、全国大会(11月、東京)の出場者候補に推薦された。「出会い」の内容を紹介する。

   ◇    ◇

 その日の朝はすごく目覚めが良くすっきりした朝でした。いつもより30分も早く起きた私は、普段とはまるで違うがらがらのバスで、学校に向かいました。

 2つほど停留所を過ぎ、次を目指したバスが急に動き出しました。その急発進で、さっき乗ったお婆さんがバランスを崩し、空き缶につまづいてしまいました。

 コツン。

 つえの転がる音がして、そのお婆さんがこけてしまいました。

 その瞬間とっさに私は手を差し出し、お婆さんを両手で起こしていました。

 「大丈夫ですか? おけがは?」私の問いかけに、歯がなくなったその口を大きく開き、お婆さんはにっこり笑ってこう言いました。

 「いえいえ。けがは有らへんよ。ほんまに、おおきに。今のご時世、こないに老人をいたわってくれる子はおらんわ。さあお席にかけましょうか」

 優しそうな笑みに誘われるまま、私はお婆さんの横に座りました。

 「どっこらしょ。私はもう年が80じゃ。腰が痛うてなあ。お前さんは学生さんかい? お年はなんぼで何年生じゃ?」

 とても初めて会った人とは思えず、何だか自分の祖母の様な、懐かしい気持ちになりました。「年は14歳で中学2年生です」。私も笑顔で答えました。

 するとお婆さんは驚いたという風に、「お前さんは体がでかいので年より大きく見えるわ。高校生かと思うとったわ。学校はバスで通うとんの? どこの学校へ行っとるん?」

 ズキン!

 なぜか私の胸が一瞬高鳴りました。(朝鮮の学生だと知ったらお婆さんはどう思うだろうか?)。

 私がだまっているとお婆さんがうつむいた私に、「あらあ、あんたどないしたん? お前さん、そのチョゴリを着とるところ見たら朝鮮の人やろ?」。お婆さんは笑顔のまま優しく問い直してくれました。

 「はい。京都朝鮮中高級学校に通ってます」。一瞬ではあれ、「朝鮮人」だと言うことをためらった自分を振り切るように、私は大きな声でハッキリと答えました。

 するとお婆さんは急にしみじみした口調になりました。

 「うちはできたら、お前さんのお婆さんやお爺さんの年になる人らに謝りたいわ。うちら日本人が勝手に朝鮮の人らを連れて来て、朝鮮の人らをたたくわ、なぐるわ…。悪口もよう言うた。お前さんから伝えておくれや。ほんまにすまなかったいうて…」

 私はびっくりしました。

 見ず知らずのお婆さんから朝鮮と日本の過去の歴史のことで、謝られたということに。

 チョゴリを着ていると「朝鮮人」だと白い目で見られたり、反対に「ステキ」だと言われたこともあったが、「謝られた」のは初めてだったのです。

 朝鮮と日本の過去の悲しい歴史を直視し、こんなにも素直に謝っているお婆さんの気持ちがしみじみと伝わり、私はなぜか凄く感動していました。胸の奥に言葉がつかえてなかなかしゃべれません。そんな私がようやく言った言葉。

 「お婆さん、顔を上げてください。お婆さんが悪いのではありません。お婆さんはいい人です。お婆さんの様に考えてくれる方がいると本当に安心します。そんな人たちが増え続けることが私たちの未来につながりますから…」

 やっと胸につかえた言葉を言えた様でした。いつの間にか私たちを乗せたバスは銀閣寺前に止まり、私とお婆さんは深々とお辞儀を交わしました。その時私は、いつか朝鮮と日本もこんな風に心からあいさつしあえたら本当にいいなあと思いました。

 胸を張って歩こう!

 差別のないそんな新たに始まる未来へと…。

 お婆さんとの小さな出会いで得た大きな感動をもっともっと広めるために…。