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時事・解説/朝米関係の現状


 1994年10月21日に朝米基本合意文が採択、発効されてから4年が経過した。共和国はこの間、合意を誠実に履行してきたが、米国はどれ一つとしてまともに履行していない。こうした状況を打開するためにニューヨークで朝米高位級会談(8月21日〜9月5日)が開かれ、米国は合意文に対する自らの義務履行を再確認。にもかかわらず米議会や一部強硬保守勢力は、合意文破棄まで口にしているが、合意文の履行は「同時行動原則」に基づき行われるべきものだ。合意文の履行状況と、双務懸案問題についてまとめた。(基)

 

基本合意文

まともに履行しない米/軽水炉本格工事も延期

燃料棒の密封作業再開

 基本合意文では、共和国が黒鉛減速炉と諸関連施設を凍結する一方、米国は共和国に2003年までに計200万キロワット発電能力の軽水炉を提供し、1号軽水炉完成までのエネルギー損失分として毎年50万トンの重油を納入することが明記された。また貿易と投資の障壁を双方が緩和することも指摘されている。

 これまで共和国は合意文を誠実に履行してきたが、米国は合意文をまともに履行していない。そこで朝米は合意文履行問題を話し合うためにニューヨークで高位級会談を開いた。会談で米国は、@今年、提供することになっている重油納入は9月下旬に始めて年末までに完了させ A11月から本格的に軽水炉建設に着手し B共和国を「テロ支援国名簿」から除去するための協議を開き、それが制裁撤回につながるようにする、など合意文の義務履行を確約した。

 この確約を踏まえて、共和国が「4月以降中断していた使用済み核燃料棒の密封作業を9月22日から再開した」(9月23日=時事)ことを米政府は確認している。しかし9月下旬に始めるとした重油納入は10月1日現在実施されていない。共和国が「われわれだけが合意文を履行し、米国は合意文を履行しなくてもよいという論理は通じない」(労働新聞2日付)と非難するのも当然だ。

 それどころか米国は21日までに、99会計年度(98年10月〜99年9月)一括予算法案に盛り込まれた朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への資金拠出(3500万ドル)に関する議会と政府の合意で、7つの条件を付けてきた。それによると、来年3月1日までは一切の拠出を認めず、6月1日までに @基本合意の関係国が朝鮮半島の非核化共同宣言(92年1月)の履行、南北会談の履行に関しての前進を確保するための行動をとりA共和国が使用済み核燃料棒の封印作業に努力し B共和国のミサイル開発と輸出防止に米国が努力する――など4項目をクリントン米大統領が保証できれば、まず1500万ドルの拠出が可能としている。残りの2000万ドルについては6月1日以降に拠出を認めるが、大統領がさらに @地下施設疑惑に関する米国の懸念を払うための措置を共和国と合意し Aミサイル輸出を含むミサイル脅威を緩和、削除するための共和国との交渉において大きく前進する――など3項目の保証を得ることを必要としている。

 ミサイル問題や地下施設問題は合意文にはない。それを合意内容の一つである重油納入問題の「前提条件」にするのは合意文の精神に反するものと言わざるをえない。

 

KEDO拠出署名へ

 軽水炉建設の本格工事には総額約46億ドルが必要だ。日本政府は共和国の「ミサイル発射」を理由に講じた「規制措置」の一つとして、KEDOへの10億ドルの拠出を凍結したが、21日にようやく凍結を解除、KEDOの決議書に署名した。

 これによって停滞していたKEDO事業が軌道に乗ることになった。しかし費用分担案の署名手続きの遅れで基礎工事が「来年1月15日まで延期」(毎日新聞16日付)されたため、米国が確約した11月からの本格的な建設着手は事実上、不可能となった。

 

空約束に耳傾けぬ

 一方、共和国を「テロ支援国」リストから除去するための朝米協議が9月28日にワシントンで開かれた。

 協議の全容は明らかにされていないが、米国は経済制裁解除につながる「テロ支援国」リストから共和国を削除する条件として、「@明確にテロとの決別を宣言するAテロ防止の国際条約に署名するBテロ非難の国連決議に賛同する」(朝日新聞9月29日付)などを挙げた。しかし共和国は「他国の自主権を侵害し、世界の平和と安全を蹂りんするあらゆる形態の国際テロ行為に強く反対する」(96年5月18日発朝鮮中央通信)と再三にわたって強調し、反対の立場を明確にしてきた。

 こうして見ると、軽水炉建設、重油納入、対北制裁解除など基本合意文に明記された義務事項を米国が何ひとつとしてまともに履行していないことが分かる。

 共和国は「核燃料再処理の再開など、枠組み合意に明らかに反する行動はしていない」(ジョエル・ウイット前国務省KEDO調整官、朝日新聞一日付)。「同時行動」を原則とした朝米基本合意文を誰が誠実に履行していないかは明らかだ。

 「米国が破棄するならば破棄しても差し支えない。空約束にこれ以上、耳を傾けずに合意文を放棄し、元来われわれが計画した朝鮮式で行こう」(外務省スポークスマンの10月13日付談話)との声が朝鮮人民の中で高まっているのは当然と言えよう。

 

懸案問題

「ミサイル」は自主権に属する

 朝米ニューヨーク会談で双方は、4者会談とミサイル協議の再開など双務懸案問題に対して一括妥結形式で合意を見た。さらに米国が疑惑を提起している共和国の地下施設に対する協議を行うことにもした。

 4者会談は21日からジュネーブで始まった。初日に共和国は @南朝鮮駐屯米軍撤退 A朝米平和協定締結 B米・南朝鮮による合同軍事訓練の中止 C朝鮮半島への武力搬入禁止――を論議するよう主張した。

 ミサイル協議はこれに先立ち1、2日、ニューヨークで行われ、韓昌彦外務省米国局長とアインホーン国務副次官補(核拡散防止問題担当)が代表として出席。

 初日の協議で米国は、ミサイルの発射停止と輸出削減を行ったうえで、国内の生産・開発を徐々に中止するとの段階的解除案を提示し、ミサイル問題の前進に応じて対北経済制裁の緩和や食糧の追加支援を実施する用意がある(ニューヨーク2日=時事)ことを伝えた。

 しかしミサイルの開発、生産、配備は共和国の自主権に属する問題であり、米国の言う対北経済制裁の緩和は基本合意文に沿って米国が実施すべき義務であり、食糧支援はあくまでも人道問題である。

 共和国は協議で、ミサイル輸出凍結を行った場合の代償として、毎年10億ドル(約1350億円)を3〜5年間にわたり継続的に拠出するよう米国に求めた。また、対北経済制裁を緩和し、それによる共和国の増収が年間10億ドルに達すれば、永続的なミサイル輸出凍結に踏み切ることも米国に打診したという(読売新聞7日付)。

 双方の主張は折り合いがつかず、具体的な進展はなかった。しかし協議継続では合意し、年内再開を目指すという。

 一方、朝米は16日までに、チャールズ・カートマン朝鮮半島和平担当特使が11月中旬に訪朝することで合意した(読売新聞17日付)。特使は朝米関係全般に関する協議を行うほか、地下施設を視察し、朝米関係の進め方についても話し合う予定だという。地下施設について言えば、共和国は民需対象であることが判明した場合、名誉毀損に対する補償を米国に求めている。

 いずれにせよ、米政府の大使級高官が共和国に入って協議を行うのは今回が初めてで、「米朝関係の進展にはずみをつけるものとして注目」(読売新聞17日付)される。