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特集/どうなる介護保険


 日本社会で高齢化が進み、寝た切りや痴ほう症のお年寄りを抱える家族らの負担が重くなるなどの問題が深刻化する中、2000年4月から、社会保険方式で介護サービスを提供する介護保険制度がスタートする。40歳以上の人(在日外国人も含む)すべてが保険料を収め、寝た切りや痴ほうになった時に介護サービスを受けられるようにするものだ。ただ、サービスを提供する人員や施設の整備の遅れ、低所得者への配慮不足など、制度の不備を指摘する声が多々ある。在日同胞の場合はこれに加え、制度的差別による無年金高齢者の存在など固有の不安材料もある。制度の仕組みと、在日同胞の立場から見た要注意点を見る。(賢)  (※保険料、費用などの金額は厚生省の試算によるもので、確定したものではない。)

 

手続き

役所に申請、調査経て判定

 介護サービスを受けるには、制度を運営する市町村・特別区から「介護が必要」と判定されなければならない。

 手続きはまず、市町村役場の窓口に申請する。

 申請を受けた市町村は、職員か民間の介護支援専門員(ケアマネジャー)を調査のため申請者宅に派遣。調査員が本人や家族から、生活上の動作の問題点などを聞き取り、そこで得たデータをコンピュータ処理して1次判定を出す。

 これと同時に、市町村指定の医師もしくはかかりつけの医師が、診察に基づいて医学的な所見を市町村に伝える。

 以上の2つのデータをもとに、医師や保健婦などで構成される介護認定審査会が、介護サービスが必要かどうかを最終的に判定。要介護となった場合には、受けられる介護サービスの範囲も決まる。

 認定に不服があれば、都道府県の介護保険審査会に不服申し立てができる。

 厚生省が行ったモデル事業では、認定でかなりの誤差が出たと言われ、公平な認定ができるかどうか心配されている。

【同胞にとっての問題点】朝鮮語の説明も必要

  とくに1人暮らしの1世同胞は、行政からの的確な配慮がなければ、制度を活用することは難しい。日本語が不自由だと、制度に関する情報を把握することも不可能だ。96年に大阪府が府下の同胞高齢者を対象に行った調査(以下、大阪府調査)では、自治体が行っている各種介護サービスについて、申し込み方を知っていたのは2〜3%程度。「外国人は利用できない」と思っている人は3割以上に上った。

 また、調査員と十分なコミュニケーションが取れなければ、公正な認定も望めない。

 自治体には十分な配慮を求めると同時に、周囲にいる同胞や総聯組織が、同胞高齢者を積極的に手助けすることが必要になる。

 

サービス内容

状態に応じ在宅・施設で

 「要支援・要介護」と判定されると、本人や家族は、体の状態に応じて判定されたランクの費用の範囲内で、ケアプラン(介護サービス計画)を立てる。ランクは在宅介護で6段階あり、入所施設もいくつかの種類がある。

 プランは自分たちで作成しても良いが、地域の介護施設や訪問看護ステーションにいるケアマネジャーに依頼するのが一般的になりそうだ。この際の費用は、保険から全額給付される。

 利用できるサービスは、体の状態によって在宅介護と施設入所とに分かれる。

 在宅介護の内容は、専門のセンターに高齢者を送迎し、入浴、食事、健康チェック、日常動作訓練を行う「デイサービス」、特別擁護老人ホームで短期間、高齢者らを預かる「ショートステイ」、ヘルパーが家庭を訪問して介護・食事サービスを提供する「ホームヘルプ」などがある。

 入所できる施設は特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群がある。

【同胞にとっての問題点】同胞のニーズ反映を

  大阪府の調査では、とくに施設サービスについて「在日外国人の文化等に配慮がない」「入所者に同胞がほとんどいない」などの不満を述べる同胞高齢者が多かった。

 現行においても、自治体が行っている介護サービスの同胞高齢者の利用率は日本人よりかなり低いとされている。情報の少なさとともに、生活習慣の違いから、サービスの内容が同胞のニーズに合っていないことも問題のようだ。制度が強制加入である以上、公平な利用をはかるためにも、利用者の視点に立った配慮が欲しいところだ。

 今後、在日同胞を対象に含めた多様なサービスを行う事業者が出ることが望まれるが、すでにある制度・施設の中でも、せめて食事、文化、言葉などの配慮が行われるよう、自治体などに求める必要がある。

 

保険料

40歳以上から強制徴収

 保険料は40歳以上の人から集める。40〜64歳の人は医療保険と合わせて徴収される。

 保険料の額は、自営業者など国民健保加入者の場合は市町村ごとの算定基準で決まり、厚生省の試算では月額で平均2400円。これを日本政府と折半し、家族分を合算した額が世帯主から徴収される。

 サラリーマンの場合は、月給に保険料率をかけて保険料が決まる。厚生省の試算では、組合健保加入者が平均3400円で政管健保加入者が平均2600円。これを事業主と折半した分が給料から天引きされる。

 65歳以上の人は、保険料全額を負担する。夫婦の平均的な負担は月額5000円で、年金から天引きされる。年金支給額の少ない高齢者からは市町村の職員が徴収するが、滞納者に対しては提供する介護サービスの水準引き下げ、給付の一時差止めといった厳しい罰則が定められている。

利用者負担も

 このほかに、介護サービス費用の1割は利用者が支払う。

 厚生省が算出した費用は、在宅介護では6段階あるランクの中で、最も軽い「要支援」状態の人に対するサービスで月に6万円程度、「最重度」で35万円程度。施設入所費は療養型病床群が月に約38万円、老人保健施設が約26万円、特別擁護老人ホームで約23万円だ。

 つまり、「要支援」の在宅介護サービスを受ける際は、利用者が月に6000円を負担することになるが、施設入所の場合は費用の1割のほかに食費も支払う。

 ただし医療保険と同様、利用者の負担が1ヵ月で一定の上限を超えると、超過分は市町村から利用者に償還される。低所得者は、この上限額も低くなる。

【同胞にとっての問題点】無年金者もれる恐れ

 65歳以上の高齢者は保険料を年金から引かれるが、今年4月1日の時点で72歳以上の同胞高齢者は、日本政府の差別政策によって年金制度から排除されており、無年金状態に置かれている。

 ただでさえ生活が困窮している中で、保険料や利用費の1割負担は困難なはずだ。こうした事情が考慮されず、保険料滞納による罰則が自動的に適用されれば、それは差別の拡大につながる。

 日本政府には、1日も早い差別撤廃と無年金の同胞高齢者の救済を求めるとともに、保険制度を運用する自治体にも、こうした同胞高齢者固有の問題を考慮するよう求める必要がある。