在日同胞の生活と権利シンポジウム/同胞と組織 問題意識共有する契機に
14日に東京で行われた「在日同胞の生活と権利シンポジウム」。第1部では基調報告と @結婚 A就職 B福祉――に関する報告が行われ、第2部では報告者と会場の意見交換、質疑応答があった。シンポは長時間に及んだが、会場に詰めかけた同胞たちはみな真剣に耳を傾け、意見を提起。時間の関係で十分に議論が深められなかった部分もあるが、同胞と組織が課題と問題意識を共有する大きなきっかけになったと言える。
基調報告
総聯中央 柳光守同胞生活局長
同胞密着型の組織へ/未解決の権利問題実現に尽力
こんにち、同胞の生活と権利を守ることは、総聯組織にとって特別重要な問題だ。総聯は、第18回全体大会で同胞の民族的尊厳を守り、生活と権利を擁護する問題に積極的に取り組むことを重要な課題として提起した。今日のシンポジウムもその一環として開催された。
民族性を守り、権利と生活を擁護・拡大することは、尊厳ある生活を営む人間として当然の権利であり、民族的尊厳を擁護し、権利を拡大するための総聯の要求とたたかいは、国際社会で積極的な支持を受けている。
総聯は、国連をはじめとする国際的支持を受けながら、日本当局に対する要請活動を中心に @民族教育権の保障 A「外国人登録証」常時携帯の廃止 B72歳以上の同胞高齢者に対する老齢年金の適用 C36歳以上の同胞障害者に対する障害年金の適用――など、未解決の権利問題を実現するための運動を強化していく。
総聯は、全同胞が利害関係を持つ権利課題の問題とともに、生活と価値観が多様化した同胞1人1人が抱えている生活上の複雑な問題の解決に、責任をもって対処していかなければならない。とくに、同胞の生活問題が持ち込まれるのが主に支部であることを考慮し、支部活動の助けとなる実践的対策を講じたい。
第1に、人権協会と同胞法律生活センター、同胞生活相談所が支部と連携を持ち、電話、ファックスなどを通じて支部と定期的に相談できるシステムを作り、支部での「生活相談の日」を制度化したい。
第2に、同胞たちの安定した生活と、子供たちの将来のために、近い将来、「就職情報センター」を設立する予定だ。
第3に、同胞社会での高齢化に応じた対策を立てることが必要だ。各地につくられた同胞老人福祉施設との連携を強化する一方で、1人暮らしの同胞高齢者を助ける施設も作る予定だ。
第4に、推計2万人を超える同胞障害者の治療と教育、成人後の社会生活にいたるすべての問題解決に力を注ぎたい。
1年12ヵ月、1日24時間どんな時でも、同胞の出生から老後に至る些細な問題も誠心誠意解決し、祖国に代わる母の懐として同胞に忠実に服務する同胞密着型の組織を目指していきたい。
民族性と結婚
同胞結婚相談中央センター 李愛浩副所長
多くの出会いのチャンスを/新システム導入、支部と連携も
在日同胞の結婚問題は、在日同胞社会の存亡と関わる重要な問題だ。つまり、若い世代の同胞が日本に住みながら民族的自負心を持って堂々と生きていけるのか、在日朝鮮人運動の民族の代、愛国の代を受け継いでいけるのかを左右する死活的な問題である。
在日同胞社会における同胞同士の結婚は、2、3世が結婚適齢期に入った1965年から減少し始めた。その理由として、@若い世代の中で「国際結婚」に対する抵抗感が稀薄化 A個人生活優先で晩婚化が進む B相手選びの基準が人物本位より経済問題優先へ C出会いの場が少ない――などがあげられる。
こうした現状を打開しようと、同胞結婚相談所を開設してから4年半が経つが、同胞の一部には未だに相談所を嫌う傾向が残っている。総聯をはじめ民団や組織に属していない適齢期の青年を広範に網羅できていないなど、結婚相談所が是正しなければならない問題もある。
同胞同士の結婚を奨励、成就させるには、相談所が若い世代の同胞たちの実情に合わせた幅広い活動システムを確立することが重要だ。
相談所では現在まで、全国規模のネットワークをほぼ完成させ、同胞との結婚を希望する会員のプロフィール登録と、独自のシステムによる見合いを行っている。また、関東、近畿地方では毎月のように、他地方でも年に2〜3回イベントを開催し、日本のどこでも出会いの機会、条件を提供できるようになった。これまで6000余回のお見合いと90余回の「出逢いのパーティー」を通じて、840組のカップルがゴールインした。
今後、中央センターを拠点に、各地方センターと県の相談所を繋ぐ新しいコンピュータマッチングオンラインシステムとテレビ電話システムを年内に設置し、来年2月1日から稼働させる予定だ。
また、総聯支部と結婚相談システムが積極的に連携することが重要だ。
支部は同胞との活動における拠点であり、結婚相談を日常的に受けているのも支部の活動家たちだ。支部と結婚相談所が緊密な連携を保ち、ともに力を合わせていけば、同胞同士の結婚をより多く成就させるうえで転換をもたらすことが出来るだろう。
同胞社会と就職問題
在日本朝鮮人商工連合会 呉州棟商工部長
有能な人材育成、職業斡旋を/多様化したニーズに対応
在日同胞にとって就職問題は、さまざまな要素が複雑に絡んだ問題の一つであり、代を継いで民族性を守るうえでおろそかにしてはならない分野の一つだ。
今なぜ、就職問題が緊急の課題なのか。
第1に優秀な人材を求める同胞商工人たちの要求、第2に同胞の職業構成で30%を占めるようになった給与所得同胞、いわゆる「サラリーマン」と呼ばれる人たちの要求、第3に朝鮮学校卒業生を総聯の機関ではすべて受け入れられなくなった事情と、学生自身の進路に対する多様化した要求――などの理由が上げられる。
同胞青年が日本企業に就職する場合、民族的差別は少しずつ改善されてはいるものの、いまだ門戸が狭く、本質上、大きな変化がないのが現実だ。
同胞企業はどうなのかというと、正直、同胞企業の業種は多種多様でなく、労働環境も全般的に整備されておらず、見直すべき問題は多い。
一方、就職活動をする同胞自身の問題として、有能な人材を求める企業側の要求に比べ、全般的に就職を希望する側の水準はそれほど高くない。
就職とは、人間として生まれ、何を生きがいにして生活するかという価値観、人生観の問題と関連する。とくに在日同胞の場合、祖国観、民族観などの問題と切り離してこの問題を考えることはできない。
就職問題解決のためのいくつかの対策として、まず第1に、総聯中央、本部、支部に就職問題担当者を置き、組織的な事業として推進するシステムを作ることが必要だ。個別の活動家に頼ったり、地域的な範囲といった制限を越えて、定期的に同胞企業、日本企業などの求人情報を収集し、職業斡旋を組織的に行わなくてはならない。
第2に、朝鮮新報、朝鮮商工新聞、雑誌「イオ」などの出版物に職業斡旋を扱うコーナーを設け、全国規模で職業斡旋を行うことだ。
第3に、職業斡旋の専門機関の創設が重要だ。職業斡旋の同胞企業説明会を定期的に開催し、人材を求める同胞企業と仕事を探す同胞との出会いの場を設け、中・長期的には職業斡旋だけでなく専門技術、知識を持つ同胞を同胞企業に派遣するといったような人材派遣も可能になるだろう。
同胞社会と福祉
花園大学社会福祉学部 愼英弘助教授
同胞が主体となり運動を/無年金者救済は特別立法で
同胞社会での福祉問題を巡る現状は、不十分だと言わざるを得ない。
まず、無年金の問題がある。日本政府の差別により、1926年4月1日以前に生まれた同胞高齢者と、1962年1月1日以前に生まれた同胞障害者は、年金制度から排除されている。無年金で施設に入所している同胞障害者は、仕送りがなければジュースも飲めない状況だ。
私自身、障害者として無年金問題の解決に当たって来たが、平気で嘘をつく厚生官僚の姿勢はこの10年間、まるで変わらない。しかし地方自治体の職員には、現行の年金制度は差別的であるとの認識もあるようだ。今では約3300の自治体のうち、200以上の自治体が同胞障害者に対して救済措置を取っている。
ただ、こうした運動のほとんどが同胞の当事者とそれを支援する日本人とで行われているのが現状だ。福祉問題に関する同胞社会の認識は不足している。総聯も数年前から取り組んでいるが、継続性が求められる。
高齢者福祉に関して言えば、同胞のニーズに配慮した施設は数えるほどしかなく、同胞の集住地域には施設そのものが少ない。施設は本来、行政が建てるべきものだが、在日同胞の間でそれを求める運動がなされて来なかったのも、原因の一つと考えるべきだ。
2000年4月からは介護保険制度がスタートするが、無年金の同胞高齢者には保険料、利用費の自己負担分を支払うことすら難しい。また言葉の壁などから、介護が必要か否かを調べるケアマネジャーとの意思疎通がうまくできなければ、公正な認定も望めない。食事や言葉などの面で同胞高齢者のニーズに合った施設が少ないという問題もある。いずれも早急に対策を講じるべきだ。
私の意見としては、無年金問題の解決のためには無年金者救済の特別立法を求めるべきだ。そのうえで、総聯中央が厚生省と交渉し、地方組織が自治体との交渉に当たれば、非常に強力な運動になるはずだ。
総聯は、同胞高齢者の介護に必要な施設の整備、人員の育成に努めるべきだろう。そして何よりも、同胞高齢者と同胞障害者が抱える問題を解決するために、在日同胞が中心となった運動を組織化し、広めていくことを求めたい。
質疑・感想から
結婚問題に関する議論では、「国際結婚が増えている」現状と「民族結婚を望む人も多いが出会いの場が少ない」という周知の事実が再確認され、その対策として「出会いの場を増やすため組織をあげて努力しよう」と強調された。
しかしこれはすでにやっていること。5年目に入った総聯の結婚相談所事業は民族結婚を望む層のニーズのすくいあげに成功し、成果をあげている。実際に問題なのはそこから漏れていく層だ。今後は、会場からの質問にもあった「なぜ同胞同士の結婚なのか」という本質的な議論を深めていく必要があるだろう。
就職問題では雇用者側、就職する側の問題が一緒に語られたため、的が絞れず論点を明確化できなかった部分もあったが、同胞企業のニーズと同胞学生のニーズが噛み合っていない現実が浮き彫りになった。「同胞企業に就職を望む若者が少ないのは業種が限られるから」という発言に対し、呉部長は同胞企業の2大業種であるレジャー産業、外食産業は将来性ある有望業種で十分に魅力ある職種だと答えながら、一方で新たな業種を開拓する必要もあると指摘した。
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参加者が最も真剣に耳を傾けていたのは福祉問題。「とても勉強になった」という感想が多かった。
心身障害者を抱える同胞家族の親睦団体、ムジゲ会の申桃順会長は障害者に冷たい同胞社会の閉鎖性について指摘し、「私たちが同胞社会に求めているのは、温かく声をかけてくれるとか、少し手を差し延べるとか、そんな小さなこと。障害者はかわいそうな存在ではない。他の人と少し違う、できないことがある、というだけ」と発言した。
また栃木朝鮮初中級学校の金和玲教員は、ダウン症児を数年間受け持った経験について話したが、金教員の努力を労う声がある一方、「教員1人1人の努力にすべて頼っている現状を知り驚いた」という感想もあった。愼助教授も「同胞障害児を制度として受け入れるべきであり、民族教育で障害者問題を含めた幅広い人権教育を行う必要がある」と語っていた。
こうした意見に賛同するものを含め、感想文のほとんどが福祉問題について書かれたものだった。「初めて聞く話でためになった」という感想でも分かるように、他のテーマに比べて知らないことが多すぎるからだ。それは、福祉問題が同胞社会で置き去りにされてきた現実の裏返しでもある。総聯が福祉問題を強調し始めたのは18全大会から。公の場では、今回のシンポで初めてスポットが当たったと言ってもいい。
感想文の中で数人の総聯活動家は自戒を込めて福祉問題を語り、同胞のために汗を流す決意を書いた。朝大生ら若い人は一様に「自分の認識の低さを思い知った。もっと同胞社会の現実を知らなくては」「在日同胞社会を支えていくためには福祉の知識は不可欠」などの感想を残していた。
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時間が足りなくて議論が深まらなかったなど不満の声もあったものの、同シンポが、同胞の声を聞くという当初の目的を実行に移したことで、組織と同胞が問題意識を共有するための大きなきっかけとなったことは間違いないだろう。
ムジゲ会の申会長は「私たちは、障害を持つ子供でも朝鮮人として同胞社会の中で育てたいと切実に思っている。子供たちの就学や就職で私たちの思いを実現するためには組織のバックアップが必要だ」と訴えたが、こうした声は組織に対する期待の表れでもある。民族性を志向する同胞の声にきちんと耳を傾け、活動家がもっと頭を使いもっと汗を流すことだけが、18全大会決定を実行し、同胞密着型組織として発展していける道だ。(東)