迫害の深層――衛星打ち上げがなぜ(3)/高岩仁 記録映画製作者
戦争のための世論操作/差別意識生む社会構造
共和国の人工衛星打ち上げに端を発した一連の出来事は偶発的なものではない。隣国の軍事的脅威を誇張する今の日本の風潮には、構造的な問題が潜んでいる。
第2次世界大戦後、米国の軍事力によって特定の国が世界各地で有利に投資できるような状況が作り出されてきた。現在、世界の総所得の43%を米国と日本が独占しているという。
世界のGNPは、この15年間で40%増大したが、貧困人口もまた17%増加した。
生産性は上がっても、貧富の格差は広がるばかりで、資本家が商品を生産しても売れない状況がある。
手っ取り早い解決方法は戦争だ。あらゆるものを破壊して、新しい消費需要をつくりだすしかない。
今、日本で声高にいわれている「共和国脅威論」も基本的には、このような構図の中にある。
現在の富の独占状況を維持するために、これからは米国だけでなく日本の軍事力も使わざるを得ないということだ。
日本付近で軍事的緊張を高め、戦争を起こそうとすれば共和国を悪者に仕立て上げるのが都合がよい。
海外への投資額では日本は米国を上回っている。情勢が不安定になると日本の巨額な海外投資を回収できなくなるという不安を日本の独占資本は常に抱えている。
だから、世界中どこへでも日本の軍隊を出動させられるきっかけを作りたい。いわばガイドライン関連法案の整備などは、そのような戦争推進派の不安を解消するためのものだ。
先の戦争を振り返ってみても、日本の企業家グループは1930年代、すでに海外市場の獲得のため多額の資金をつぎ込み、国内でクーデター未遂事件などを頻繁に起こした。
さらに軍部台頭のための世論操作を行い、海外侵略への道を開いた。
当時は「鬼畜米英」と言っていたが、今は「共和国脅威論」だ。
日本人のものの考え方、世論を変えていこうという大きな動きを感じる。そこには巨額な資金の流れもあるに違いない。
漠然とした危機感を抱いている日本人もいるだろうが、戦争を引き起こす社会の構造を捉える視点が欠けると「共和国脅威論」の意味するところを正しく理解することができない。
今回のように朝鮮学校の女生徒を狙ったチマ・チョゴリ事件などが起こると、マスコミは日本人の差別意識を問題視するが、実はそのような意識を作り出す構造こそが問題なのだ。
海外に投資する日本の社会構造と軍事力が、どのように繋がっているのか。ドキュメンタリー映画「教えられなかった戦争」シリーズは、そこに標準を合わしている。
朝鮮有事を想定した軍事的な動きが表面化している今こそ、朝鮮をテーマにした映画に取り組むべきだと考えている。
例えば、過去に日本の植民地支配に抵抗して勝利を勝ち取った朝鮮人民の闘争は、彼らの生活と意識をどう変えたか。それを共和国に生きる素朴な農民の視点でとらえたいと思う。(志、文責編集部)
たかいわ・じん 1935年生れ。東京写真短期大学卒、東映の撮影部員を経てフリーカメラマンとして活躍。旧日本軍の侵略の歴史を告発した記録映画「教えられなかった戦争」(マレー半島編、フィリピン編)などを制作。最新作の「沖縄編」が今月から公開予定。