視点
1996年に特派員として滞在していた平壌で女子柔道のケ・スニに会った。アトランタ五輪に初出場する彼女を取材するためだった。
韓仁根国家体育委員会副委員長(当時)につき添われて記者の前に現れた彼女は恥ずかしそうにうつむき、今にも泣きだしそうな顔をしていた。当時はまだ無名で実力も未知数。思ったよりも小柄で、世界の舞台で優勝できそうな選手にはとても見えなかった。
インタビューを申し込んだところ、韓副委員長は「ケ・スニは秘密兵器ですので顔だけ見ていって下さい。田村亮子と対戦することになると思いますが、われわれは田村を研究し尽くしています。だが、相手側はこちらの事をまったく知らないので…」と言って断ってきた。粘ってでもインタビューをとりたかったが、「秘密兵器温存」のため仕方なくあきらめた。
そんな経緯があったので、アトランタ五輪で彼女が田村を破って金メダルをとった時には、自分のことのようにうれしかった。ガックリとうなだれる田村とは対照的に両手を挙げてガッツポーズをとる彼女の姿は、テレビの画面上からも大きく見えた。
あれから2年。大学生になった彼女はアジア大会で52キロ級に出場し予想どおり金メダルに。共和国は4日間で金2、銀4、銅2を獲得している。
心なしか大人っぽくなったケ・スニ。2年後のシドニー五輪でもぜひ優勝してほしい。(聖)