迫害の深層――衛星打ち上げがなぜ(5)/前田寿夫 軍事評論家
先入観捨て、信頼関係を/日本に不必要なTMD
朝鮮が打ち上げたのが、「ミサイル」だということで、大騒ぎをした日本は素早く制裁措置を発動した。
詳細な分析結果によるというより、米軍の情報にそのまま踊らされたということだ。米国の狙いははっきりしている。戦域ミサイル防衛(TMD)研究に対する日本からの予算の取り付けだ。TMDに関する米国と防衛庁の意見は一致している。防衛庁も政府から予算を引き出すため今回の騒ぎを利用し、結局日本にとってメリットなどないTMDに大々的な予算を割くことになったわけだ。
しかし、今回の日本の対応にはもう一つ複雑な要素が絡んでいるように思える。
米国の情報が不確かだったにもかかわらず、「北のミサイル」が飛んでくるという先入観を働かせたことだ。分からなければ相手に情報提供を求め、そのうえで判断をすることが先決だが、その過程を省きヒステリックになってしまった。
その後、朝鮮側の人工衛星打ち上げの情報にも、ミサイルを通告なしに発射させた、と結論を変えなかった。もちろん衛星でも同じだということだ。
通報という面だけで朝鮮側を非難するのは考え物だ。通報しないのは、けしからんという日本の立場が当然だとするなら、朝鮮側にも言い分はあろう。事前に通報することによって、詳細なデーターが敵性国に把握されてしまう、そう考えたとしたら何が何でも通報するのは朝鮮側の立場からすればどうか、ということだ。
しかし、無通告でやれば危険がともなう。これを今後の方策としてどう解決するか、これはやはり外交を優先させ、対話、相互理解、信頼醸成の道筋を歩むべきだろう。
日本がH2を飛ばしても事前通告の必要がないのは地理的な問題で、ほかの国の領空を通過することがないからだ。朝鮮側が今回飛ばした方角は、日本に向けたというより、衛星打ち上げの当然の位置なのだ。実験などはどこの国でもやっていることなので、朝鮮だけがとやかく言われる問題ではないだろう。
だが、国内では「北の脅威論」というものが頭をもたげており、その風潮が今回の問題を曇らせている。冷戦崩壊後、米国は世界戦略のため一方的に朝鮮などを「ならずもの国家」と決め付け、ソ連に代わる新たな脅威と位置付けてきた。
日米安保の再定義である新ガイドラインはこうした米国の戦略に沿って打ち出されたものだが、狙いは朝鮮半島だ。
しかし、日本にとって真の「脅威」の正体は一言で言えば日米安保体制だ。日米安保が存在し、在日米軍基地があるから、日朝は軍事的な緊張関係の中に置かれるわけだ。在日米軍基地からは、朝鮮半島に狙いを定めたミサイルが配備され、日米が連動してすぐに乗り込む体制が出来上がっている。
朝鮮側にとって、朝鮮に向けられた武器が配備された在日米軍基地を温存している日本は、脅威だという話になる。
要するにこうした関係が、衛星を飛ばしたという朝鮮の行為を「ミサイル攻撃」に変えてしまうのだ。
南北の軍事的緊張関係に直接かかわる米国と違って、日本は朝鮮半島に対しバランスよく付き合うことが必要だろう。
朝鮮に対する先入観を捨て、相手とどのような関係を築くかが大事である。(嶺、文責編集部)
まえだ・ひさお 1919年生まれ。元防衛庁防衛研修所第1研究室長。