記者座談会//今年の総聯活動を振り返る
共和国創建50周年を迎えた今年、総聯も第18回全体大会を開催し、21世紀に向けて助走を始めたと言える。激動の朝鮮半島情勢は、在日同胞の生活にも影響を及ぼしたが、民族教育の権利拡大を求める運動は着実に前進した。総聯の運動転換においても生活・権利重視の色合いがより鮮明になるなど、様々な面で手応えを得られた年だった。現場で取材した記者らが、総聯活動の1年間を振り返る。
祖国と共に
建国50周年皆で祝う/冬季長野五輪、芸術講習会などで一層身近に
A 今年9月9日、共和国は創建50周年を迎えたが、9月から約1ヵ月間、本部、支部、分会や各団体ごとの各種イベントが多彩に催された。その過程で支部や分会が同胞との絆を深め、同胞らも祖国愛、民族愛を一層強くしていた。
B 9月13日、東京で行われたコリアレインボーフェスティバルには3万5000人が参加し、祖国の誕生日を祝った。とくに、共和国が初の人工衛星打ち上げに成功し、金正日総書記が国家の最高職責である国防委員会委員長に推戴されたこともあり、フェスティバルは大いに盛り上がった。
A 2月には長野冬季オリンピックが開催され、共和国からはスケート・ショートトラックに八人、スピードスケートに2人の選手が参加したが。
C 地元はもちろん、各地から応援に駆け付けた同胞たちは、日本で祖国の選手に会えて嬉しいと、共和国旗を振りながら声援を送った。忘れかけていた民族への思いを取り戻す良いきっかけになったと話す同胞もいた。朝青員らもボランティアアシスタントとして選手団に付き添い、張りきってサポートした。
B 地元長野では、参加国と地域を1ヵ所ずつ担当する「1校1国運動」が行われていたが、共和国選手団は保科小学校を訪れ、約1時間の交流を楽しんだ。こうした選手らの活動は朝・日両国の民間交流に一役買ったといえる。
A また、12月6日からタイのバンコクで開かれたアジア競技大会の301人の共和国選手団には18人の在日同胞が選手、役員として参加した。
C いずれもこうした選手との触れ合いを通じ、同胞たちは祖国との繋がりを一層身近に感じたようだ。
B 各地で行われた共和国の専門講師による芸術講習会も、祖国の息吹と民族の情緒を肌で感じる良い機会となっていた。とくに生徒たちは本場の指導を受けた自信が着実に表れており、11月に行われた芸術競演大会で舞踊の基礎動作部門の評価が高かったことも、過去3年間にわたる講習の成果と言える。
A 食糧問題をはじめ一時的な経済的難関を経ている共和国への支援も続いた。総聯と女性同盟、在日商工人と科学者が協力している複合微生物肥料生産事業は共和国各地で着実な効果を上げている。
運動方針
生活重視、より鮮明に/民族の伝統を継承・固守
A 総聯は5月に第18回全体大会を開き、今後3年間の活動方針を決めた。「民族性の伝統継承と固守」「生活向上と権利の拡大」「祖国の統一実現と繁栄に寄与」の3つが柱だが、大会報告では「今後の3年間は総聯と在日朝鮮人運動の将来を大きく左右する重要な転換の時期となる」として、18期の重要性を強調した。
C 95年の17全大会以来、在日同胞の生活に密着した形に運動を転換しようとその方向性を探って来たが、その過程で、活動家らは同胞社会の現状、同胞らの志向の把握に努めた。今回の方針はその経験を踏まえて出されたものと言える。
B たしかに、大会報告では「民族性」に関する部分で「在日同胞社会は今、民族性の固守か喪失かという岐路に立っている」と、非常にシビアな認識を示している。これは、同胞社会で3、4世が過半数を超え、日本への帰化者と国際結婚の件数が年々増える現状をとらえたものだ。民団が日本における少数民族としての生き方を促す「参政権運動」を進めていることも看過できない問題だとしている。対応策としては、若い世代がもっと自分のルーツを知り、伝統的に受け継いだものを生活の中で表現できるようにする民族文化運動、朝鮮学校での民族教育や同胞結婚相談事業の一層の充実などが上げられている。
A 11月には「在日同胞の生活と権利シンポジウム」が東京で行われたが、この方面でも運動転換への傾向が顕著だ。ここではとくに、同胞高齢者と障害者の問題などがクローズアップされた。具体的には、日本政府の差別政策により、少なくない同胞高齢者と障害者が無年金状態におかれている問題、朝鮮学校で同胞障害児を受け入れていく問題を解決していくことが提起された。
C シンポジウムでは同胞障害者自身や障害児を持つ母親から切実な訴えが聞かれた。感想文を見ると、幾人かの総聯活動家が、これまでの運動でこうした人々の存在が漏れていたことについて、自省の念を語っている。こうして同胞の肉声を取り込みながら、組織は運動の課題を探り、21世紀に向けて生活密着型への転換を進めようとしている。
朝鮮学校
学科新設など内容充実/目覚しいスポーツでの活躍
A 今年は、総聯第18回全体大会でも民族教育の重要性が改めて強調されたように、21世紀に向けて民族教育の内容と環境をより充実させるための活発な取り組みが行われた。
B 朝鮮大学校では、魅力ある大学を目指して1999年度から体育学部、法律学科、情報処理学科が新たに設けられる。多様化する同胞社会のニーズに少しでも応えようという措置で、東京朝高でも今年度から体育科と情報処理科が新設された。
C 新潟や群馬の各初中をはじめ、今年も各地の朝鮮学校で新築、改修工事などが行われ、10月には総予算13億円で建設された東京朝高の新校舎竣工の集いが盛大に催された。
B 東北初中高、長野初中でも新校舎建設事業が進められており、長野初中では同校オモニ会の提案で「ペットボトル1日100円貯金運動」が繰り広げられている。
C 長引く不況の中でも、在日朝鮮人運動の未来を担う子供たちのために、より良い教育環境を与えてあげようとする父母や同胞らの熱意が伝わってくる。
A その熱意に応えて今年、スポーツ分野では全国レベルで目覚ましい活躍が見られた。何よりも大阪朝高ボクシング部の白永鉄君が、全国高校選抜大会で朝高生として初の金メダルを手にしたことが上げられる。1994年に朝高ボクシング部に全国大会参加の道が開かれて5年目で「全国制覇」を果たした。
C サッカーでは京都朝高が府の新人戦で初優勝し、大阪朝高も全国選手権予選で3位に入る健闘を見せた。また、大阪朝高が朝高ラグビー部としては初めて府予選で準優勝。全国大会出場はならなかったものの、選手らは最後まで果敢にタックルを決め、来年に期待をつなぐ奮闘を見せてくれた。伝統のジャージを着てトライする姿に、応援に駆け付けた3000人の大応援団も胸を熱くしていた。
B 芸術コンクールや弁論大会でも優秀な成績を収めた。中学生を対象にした日本で最も権威のある弁論大会「少年の主張」の都道府県大会には、9人の生徒が入賞を果たした。1月の「NHK青春メッセージ98全国コンクールには大阪朝高の金倫朱さんが出場し、民族教育の素晴らしさをアピールした。
民族教育権
国連など差別是正勧告/京大大学院、朝大卒業生の受験認定
A 今年は朝鮮学校の処遇改善を求める在日同胞の主張の正当性を内外の世論が確認した、手応えある1年だったと言えるのでは。
B そのとおりだ。2月に日本弁護士連合会が日本政府に対し、朝鮮学校など在日外国人学校が置かれている制度的差別状況の是正を勧告した。その中で、これらの学校が学校教育法上の1条校に比べ資格や公的助成の面で著しい不利益を被っている現状は、日本国憲法や各国際条約に照らして重大な人権侵害だとした。
C 6月には国連・子どもの権利委員会の日本政府への勧告が出された。「子どもの権利条約」の日本における順守状況を審査した結果として、「朝鮮人の子どもの高等教育機関への進出の不平等」について懸念を示したうえで朝鮮人をはじめマイノリティの子どもへの差別的な取り扱いについて全面的に調査し、解消するよう促す内容だ。国際機関としては初の動きだ。
B 11月の「市民的政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)の審査もあった。国連・自由権規約委員会は日本政府に、朝鮮学校差別を含む在日朝鮮人差別の是正を求めた。
A 同胞たちもこうした動きに大きく励まされたと言える。日弁連勧告と国連での2つの勧告を理論的武器にして助成拡大と大学受験資格認定を求め政府、自治体などに要請を続けた。
C 受験資格問題と関連しては特記すべき出来事があった。京都大学大学院理学研究科が8〜9月に行った修士課程入学試験で、国立大の大学院として初めて朝大卒業生3人の受験を認め、うち1人が合格。経済学、教育学、文学の各研究科も出願資格を「1条校」卒業生以外にも拡大する措置を取り、朝大卒業生に門戸を開いた。こうした動きは来年も広がりを見せるだろう。
B 京大大学院などのケースが示すように、現行のシステムでも各大学が独自の判断で門戸を開く余地はある。助成拡大問題も同様で、自治体によっては各種名目の補助金を出す救済措置を取っている。
A しかし大学や自治体が認めても、文部省が「資格なし」としている限り、人権侵害の本質は変わらない。日弁連や国連の委員会の勧告も、差別の責任は日本政府にあるとしており、とくに日弁連は、差別解消には立法措置が必要だとしている。今後も大学や自治体への働きかけを続けつつ、政府には根本的な政策転換をより強く迫ることが重要だ。
「ミサイル騒動」
暴力生んだ世論操作/声あげ迫害と闘う
今年は、在日朝鮮人運動の多くの分野で成果・前進が得られた一方、言われなき暴力が再び在日同胞の身にふりかかった。それでも同胞らは偏向した世論を正し、迫害をはねのけようと懸命にたたかった。
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日本政府が共和国の人工衛星打ち上げ(8月31日)を「ミサイル」と断定、軍拡の思惑から展開した反共和国キャンペーンを背景に、朝鮮学校生徒・児童らに対する暴言・暴行事件が頻発。同胞や組織への脅迫、人権侵害も相次いだ。
同種の事件は89年に「パチンコ疑惑」が、94年に「核疑惑」が騒がれた時にも発生した。政治的思惑から反共和国、反総聯の世論操作が行われ、日本人の中に潜む朝鮮民族への蔑視、反感が朝鮮学校生徒への暴力として表れる構図はいずれも共通している。
ただ今回は、国会が全会一致で共和国への非難・抗議の決議を採択、地方議会でも同様の決議が相次ぐ大政翼賛的な空気があり、一層強い危機感があった。
そして10月には、千葉朝鮮会館で総聯千葉支部の羅勲副委員長が殺害され、会館が放火される事件が起きた。真相解明はまだだが、計画的犯行の疑いが濃い。その後も、生徒への傷害や総聯の会館への火炎瓶襲撃など事件は続いた。
一連の事件は犯人の実体もつかめず日本政府もマスコミも姿勢を改める様子はない。一見、手の打ちようはないようにも思える。
しかし、組織・同胞らは声を上げ続けた。一方的な「情報」によって偏見が増幅される流れを断つには、朝鮮人のものの見方、考え方を積極的に示して相互理解を図るほかないからだ。努力の結果、日本人の間にも情報操作への警鐘を鳴らす人が増えつつある。
情勢について勉強会を行った大阪のある総聯分会では、「世論が悪化しても、普段から交流している日本人は理解してくれる。草の根の朝・日親善を積み重ねていこう」と決めた。都内で自主的に集いを開いた朝鮮学校生徒のオモニらも、「一般の日本人は報道をそのまま信じてる。でも向かい合って言葉を交わせば、何がしかの理解を得られる」との意見で一致した。
同胞らは朝鮮人としての自分の言葉をもって、困難に立ち向かっている。