民族教育への差別は重大な人権侵害/日弁連が日本政府に是正勧告
日本弁護士連合会(日弁連)は20日、朝鮮学校をはじめ在日外国人学校が置かれている制度的な差別状況を是正するよう求める勧告書を、橋本龍太郎首相と町村信孝文相に提出した。勧告は、これらの学校が、学校教育法上の1条校に比べ大学などの受験資格や公的な助成の額で著しい不利益を被っている現状は、外国人に対し間接的に日本の教育を押し付け、民族文化の保持を妨げていると指摘。日本国憲法や各条約に照らして重大な人権侵害に当たるとしている。勧告には法的拘束力こそないものの、法曹界の一角が差別がある現実を正面から指摘し、政府に是正要求を突きつけたことは、在日同胞による朝鮮学校の権利獲得運動を強く後押しするものと言える。
憲法・条約違反と判断/大学受験資格、補助金など
日弁連の人権擁護委員会は、教職同中央と教育会中央が1993年2月に行った、朝鮮学校の資格および助成に関する人権救済申立を受け、朝鮮学校の設立経緯や教育内容、差別の実態などを合わせて調査。「教育内容、日本国の学校教育法による学校教育に準じたものと認め」た上で、今回の勧告に至った。
勧告は、「子供の権利条約など関係条約違反の状態が継続している」との判断に基づき @公的な資格を認定する試験の受験において、1条校と同等の資格を認める A私立学校振興助成法によるのと同等以上の助成金の交付 B民族教育の権利を侵害している各都道府県知事宛の文部事務次官通達(1965年12月28日付)を撤回し、その被害を回復する――の3点に趣旨がまとめられている。このうち Aと Bでは、現状を是正する立法措置がとられるまで、と前置きされている。
日弁連は92年にも、高体連が朝鮮学校の加盟と大会参加を拒否していた問題で、高体連に対して差別状況の是正を指導するよう文部省に勧告したが、朝鮮学校に対する制度的差別を包括的に取り上げ、政府の責任を直接指摘するのは今回が初めて。
日弁連は衆参両院、各政党・会派、各国立大学学長、国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学協会、日本私立大学連盟、日本私立大学振興協会に対しても、現状是正の要望を行う。また、子供の権利条約の実施状況を審査する国連子供の権利委員会に調査報告書を送付し、「日本国政府が同条約の批准後においても外国人の教育に関して人権侵害の甚だしい事実」を報告するとしている。
日本政府、国立大学は速やかな措置を/教職同中央と教育会中央
日弁連が私たちの人権侵害救済の申立を受け、日本政府や関係各位に勧告・要望を行ったことを高く評価し歓迎する。
今日まで運動を進めてきた教員と父母をはじめ関係者は、日弁連の対応を喜ぶとともに、大学入学資格の認定と差別ない助成金交付の実現に向けてさらに奮闘する決意を新たにしたい。
日本政府や国立大学が、今回の勧告を真摯に受け止め、大学受験資格を認め、差別のない助成金の交付などの措置をすみやかにとられることを強く求める。
解説/国際社会とのずれ示す
今回、日弁連が政府に勧告した内容は、理論的な面では、これまで朝鮮学校側が主張・要求してきたことの正当性を確認したものと言える。同時に、日本政府の政策の不当性については、極めて強い調子で指摘している。
勧告書とともに提出された調査報告書では、現状は日本国憲法、子供の権利条約、国際人権「自由権」規約、外国人の人権宣言、人種差別撤廃条約などに違反すると指摘。在日朝鮮人をはじめ在日外国人の教育に対し、「不利益を甘受させ」「不平等を生ずる差別を合理化する理由はまったく存在しない」とした上で、「自己の文化を保持する教育のために過大の負担を負わせることは、それぞれの外国人に対する権利侵害のみならず、その民族に対する侵害であり、それぞれ外国人の本国の主権に対する侵害である」と断じている。
さらに、現在の人権侵害状況を解消する処置としては、義務教育段階の外国人学校に対して、少なくとも国公立小・中学校と同額の助成を行うべきとするなど、専ら「私学並の助成」を求めて来た朝鮮学校側の主張より踏み込んだ内容も見られるが、これも憲法、国連憲章、各宣言、各条約が日本政府に課した義務として述べられている。
また、「この人権侵害は、現行憲法制定下に発生している最大の人権侵害の1つ」との記述もある。
調査を行った鈴木孝雄弁護士は同日、文部省で行われた記者会見の席上、「差別を続ければ、日本の国益にとってもマイナスになる」と強調した。
今回の勧告は、日本政府が国際社会の一員として全うすべき義務・課題の実行が、今や切実となっていることを示している。(賢)