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「参政権」は必要か(中)/制度的差別こそが問題


問題の根源

 「人間の基本権が確立されていない状況での政治参与とは、その真相をカムフラージュした仮面劇に過ぎない」。米セントラルメソジスト大学の鮮于学源・名誉教授は「参政権」問題についてこう忠告する。

  その根拠の1つとして、同氏は米国では総人口の15%を占める黒人が市民権(参政権)を持っていながら、今もなお差別が是正されていないばかりか、貧困の度合いがさらに深まっている現実をあげている。

 日本の人口のわずか0.6%にも満たない在日朝鮮人が、「参政権」に頼ったところで差別的状況を変えることはできないのは明らかだ。

 在日朝鮮人はこれまで自らの基本的人権擁護のための運動を着実に前進させてきた。ただ未だにその権利状況が劣位にとどまっているのは、「参政権」がないからではない。

 在日朝鮮人の不安定な生活は、日本政府が朝鮮の植民地支配に対する謝罪と補償をきちんと行わず、一貫して共和国に対し差別政策、敵視政策を取り、在日朝鮮人の民族性と基本的人権を尊重しない政策を取り続けてきたところにその根源がある。

 

一貫した権利運動

 「『参政権』を持ち出したことによって、これまで一歩一歩前進させてきた権利運動が、他の問題にすり替えられてしまうのではないか」と、憂慮する在日同胞の声が高まっている。

 これまで在日朝鮮人は、民族性否定の立場を取り続ける日本政府の不当な処遇に反対し、自らの力で民族教育を拡大発展させ、初級から大学に至る整然とした教育体系を確立してきた。

 民族教育の権利を守る運動は高体連主催の各競技への朝鮮学校生徒の参加実現(94年3月)、朝鮮学校JR通学定期券割引率差別の是正(94年2月)を経て、民族学校卒業生の日本の国公立大受験資格や朝鮮学校への助成の拡充など制度的差別の全面的是正に向けて日々盛り上がっている。

 また、「外国人登録法」の治安立法的性格の是正を求める運動や、統一的でより安定した在留資格である「特別永住権」が実現できるようにした粘り強い運動を、総聯が結成以来一貫して繰り広げてきたことは言うまでもない。

 また、同胞の高齢者や障害者のための年金をはじめ各種社会保障の適用など権利問題の解決のため力を尽くしてきた。

 当初の無権利状態から徐々に権利を獲得し、人権保障の国際的水準に向けてたゆみない拡大を遂げてこれたのは、日本の内政に対する不干渉の原則を堅持しながら、日本国民との友好を強化発展させてきた同胞の団結した運動によるものだ。

 

矛盾が埋蔵

 日本弁護士連合会(日弁連)人権擁護委員長代行の床井茂弁護士は、「参政権の問題は、矛盾が埋蔵されている」と指摘しながら、要するに在日朝鮮人をどのように扱うかという根本的な問題、まず植民地支配の清算が行われていないという現実を見つめ、その上で制度的差別を解消していくことが重要だ、と語る。

 日弁連は2月20日、首相と文相に提出した勧告書で、朝鮮学校などに対する差別は「制度的な不平等」との判断を下した。

 「法の下の平等の原則に明らかに反し、現憲法下の最大の人権侵害の1つ」(同調査報告書)として、日本人からしても「異文化を排除しているようにしか受け取れない」(朝日新聞2月21日付)状況が半世紀以上も続いている。

 こうした異文化排除の状況にあって、在日同胞が日本の政治に参与し、政党間の政争に巻き込まれれば反対の立場に立つ日本人は、在日朝鮮人の権利主張に耳を傾けるどころか、新たな民族対立と差別意識を呼び起こす格好の材料となるだけだ。(J)