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「参政権」は必要か(下)/同胞社会に亀裂もたらす


日本社会に埋没

 「参政権」が定住外国人の「一致した要求である」との一部の意見には非常に無理がある。1つはこの問題に対する十分な論議がされていないばかりか、在日同胞社会だけでなく他の定住外国人の間でも反対意見が多いからだ。

 「在日韓国民主統一連合」は昨年7月、「参政権論議は在日同胞を祖国や民族との関係から実態的にも意識的にも分離、解体させ、日本社会への埋没を促進することにつながる危険性をもち、民族的団結も阻害する」との見解を示している。

 一方、東京華僑総会劉俊南副会長は昨年1月、「中国政府の華僑政策は、現地の政治活動結社には一切参加せず、自分の権益を守りながら現地の人たちと友好的に対していく、というのが基本方針なんです。…子孫たちが長くここに根を下ろして平穏に暮らしていくためには、その方がベターかと感じています」と述べている。

 在日外国人の中で多数を占める在日同胞社会において、この問題に関するコンセンサスがないばかりか、華僑など外国人別に意見を異にしているのが現実だ。

 現在、「参政権」を要求しているのは、民団の一部幹部とこれに賛同する人および「参政権」を主張する「在日論」者、長期在留欧米人の中のごく少数だ。

 なのに一部の意見だけが一人歩きし、それを地方議会で論議するということはむしろ危険だ。

 

乱暴な主張

 「参政権」問題はそもそも朝・日両国の過去、現在、そして未来に関連するばかりでなく、互いの民族性に裏打ちされた伝統、文化、国家政策に関連する重大事であるがゆえに慎重に対処すべき問題である。

 民団があたかも「韓国籍」の同胞がすべて賛成しているかのように言っているのは、極めて乱暴な主張だ。在日同胞の98%が南朝鮮出身者であるという実態のうえに、しかも朝鮮解放後から今日に至るまでの、米国・南朝鮮・日本当局による、反共和国政策から不本意に「韓国籍」を強いられた同胞が多い。「参政権」に反対する総聯の関係者や同胞の中にも当然、「韓国籍」の人もいる。

 とりわけ1965年6月22日に「韓日条約」が調印された後、「協定永住権」や融資、進学などあらゆる生活上の権利を「エサ」にして官民一体による「韓国籍」強要が進められた事実がある。

 在日同胞の歴史と日本、南朝鮮当局の政策や実態からしても、国籍だけで団体の所属を分ける事は出来ない。

 

民族性の否定

 関東学院大学の萩野芳夫教授は、在日朝鮮人の歴史が差別と抑圧の歴史であったとの観点から「参政権が南北朝鮮の統一に対してなんらかの影を落とすような方向での試みであるとしたなら、きわめて慎重に対処していかなければならない」と語る。

 新しい世代が「統一世代」、「朝・日国交正常化以後の同胞社会の主人公」として希望を抱いてはばたけるような時代を迎えるためには、民族性の否定と同胞社会の離間に通じる動きは排除されるべきだろう。

 萩野教授は、「それぞれの民族がそれぞれの文化を大事にし、発展させていく、それが当該国にとって大いなる利益であり、各民族には発展への権利がある」と強調する。

 21世紀に向けて、民族性尊重を基本とした在日同胞の処遇問題の根本的な解決が実現されるべきで、そのためにも民族教育の権利など基本的人権が保障されるべきだ。そのうえで同胞社会を、民族的大同団結のもとに共存・共栄・共利を図る共同体として発展させていくべきだろう。

 民族性を弱め、さらに同胞社会に亀裂をもたらす恐れがある「参政権」は決して容認できない。(J)