どう見る日本版金融ビックバンQ&A
日本金融制度の抜本的改革、日本版金融ビッグバンが今月から本格的に動き出した。一連の規制緩和・撤廃で、金融市場を一気に活性化しようというものだ。ビッグバンで何が変わり、どんな影響があるのか。その内容と、同胞が持つべき観点などを探った。
自由化で何が起きる?
サービス、金利など選択に幅/自己責任問われる時代に
Q ビッグバンは何を意味するのか。
A ビッグバンとは元来、宇宙創世の際の大爆発のことだが、ここでは日本の金融制度改革のことを言う。かつてサッチャー執権下の英国が、1986年に行った証券制度の改革がビッグバンと呼ばれていた。
英国のビッグバンは事実上、証券取り引きの手数料の自由化だったが、日本版ビッグバンは手数料の自由化にとどまらず、銀行、信託、証券、保険などの各業種の相互参入や、金融持株会社の解禁なども盛り込まれたより全面的なものだ。
Q 何が変わるのか。
A 例えば銀行で保険が販売されたり、証券会社に預けた資金から公共料金の支払いが可能になる。金融業界の垣根が事実上、撤廃される。また、外国の金融市場との仕切りもなくなり、グローバル化が進む。
こうした自由化は企業間の競争を促し、結果として金利やサービスなどで消費者の選択の幅が広がる。
だが同時に、弱い企業は淘汰され、選択する側、つまり消費者の自己責任が厳しく問われることになる。
どう進む?業界相互参入
垣根越えし烈な競争/外資系も続々進出
Q 一連の自由化でどんな競争がおきるのか。
A 銀行と証券との関係で言えば、大蔵省が示した金融ビッグバンのプランには銀行窓口での投資信託販売の導入がある。
投資信託は、投資家から集めた資金を証券・金融市場で運用して、そこで得た収益を投資家に分配するものだ。もともと証券会社の窓口で販売されているハイリスク・ハイリターン(失敗した時の損失は大きいが、成功すれば利益が大きい)型の個人向け金融商品だ。
すでに昨年12月、銀行での場所貸し方式での投資信託販売が解禁され、大手都銀を中心に、銀行系の投資信託委託会社などが銀行の窓口を借りるかたちで営業している。
証券取引法は早ければ今月にも改正され、証券業が免許制から登録制に変わり、この業界への進出が自由化される。そうなれば銀行本体の投資信託販売も本格化し、証券会社と銀行の、業界の垣根を越えた競争が激化するだろう。
Q 外資系企業が関心を集めているが。
A ビッグバンに照準を合わせ、外資系の投資信託会社が続々と日本に進出している。
日本の経済専門家たちの間には、預金者が外資系の高利回りで安全な商品を選ぶのは目に見えており、日本の個人金融資産中、約700兆円の預貯金のうち50兆円以上が外資系に流れるとの予測がある。
7月に損害保険料率が自由化されれば、保険業界でも保険料の引き下げやサービス面での競争が激化するだろう。
ここでも、例えば地域によって異なる保険料を設定した自動車保険など、商品の付加価値や魅力を武器にしている外資系が力を見せると考えられている。
グローバル化の影響は?
海外への投資も自在/資本の流出懸念の声も
Q 金融のグローバル化はどう進むのか。
A 今月からの「外国為替および外国貿易法」(改正外為法)施行により、外国為替公認銀行に限られていた外国為替の取り引きが自由化され、外国市場への投資に関する事前許可などの規制も撤廃された。
これにより、例えばコンビニエンスストアでもドルなどの外貨と円を交換できるようになり、高利率の外国銀行に口座を設けることもできるようになった。預金は円建てでも、外貨建てでもできる。
また、商社は事前の届け出なしに外貨建て債権と債務の相殺が可能になり、日本の本社と海外の現地法人との間で資本を移動させる際にも、為替手数料などのコストを削減できる。
Q 今後、予想される影響は。
A 為替手数料の引き下げ競争などが起こり、これまで労せずして手数料を得ていた銀行は、収益低下に直面せざるを得なくなる。
また今回の措置で、約1200兆円の個人金融資産を日本国内にとどめていた堤防が一気に低くなった。
個人資産が日本国外に流れれば、日本政府は利子課税など源泉課税で得ていた3兆8000億円におよぶ税収を期待できなくなる。
深刻な財政破綻の中で、この損失のダメージは大きい。その対策として、遠からず「納税者総番号制」の導入や消費税10〜20%への引上げもあり得るとの、専門家の観測もある。
いずれにせよ、日本の金融市場と金融機関は、改正外為法の施行を機に、海外との競争にさらされることになった。
民族金融機関を守ろう
求められる同胞の力
改正外為法の施行により、日本版金融ビッグバンが本格的に動きだした。
まだ、日常生活の中で実感できる部分は少ない。しかし不況が長引く中、「フリー(自由)、フェア(公正)、グローバル(国際化)」の標語の下に現れる新たなチャンスと変化に、やがて多くの人々が目を向けざるを得なくなるだろう。
老後が不安でゼロ%台の超低金利が不満なら、金利の高い外貨建て預金は魅力だ。空前の好況に沸く、米国証券市場にアクセスする機会も広がった。「資産運用など無縁」という人でも、いつも足を運んでいる銀行の窓口で投資の勧誘を受け、一儲けする気になるかもしれない。
忘れてならないのは、そうしたチャンスは常にリスク(危険)と隣合わせにあるということだ。
外貨は常に為替変動の影響にさらされている。株価が無限に上昇を続けるとは考えられないし、投機のプロが新しい資金の流入を機に、売り抜けを狙っているかもしれない。同じ銀行の窓口を利用するのでも、投資信託には預金と違って元本保証はない。
失敗しても、問われるのは自分の責任だ。
◇ ◇
もともと金融ビッグバンは、日本の資本市場への内外のカネの流入を狙ったものだ。資金運用の選択の幅を広げ、手数料や税などの取引コストを低くする一連の施策は、資本の流動化を促すために取られた。
ただ日本の金融機関は、これまで大蔵省主導の護送船団行政で手厚く保護されてきたためにリスク感覚に乏しく、数々の不祥事で信用も失墜した。市場原理で言えば、外資系の攻勢にお手上げかもしれない。いずれにせよ、流入する外資と日本国内の約1200兆円に上る個人金融資産の争奪戦が、熾烈化することは必至だ。
日本国内の個人金融資産は、預貯金が約700兆円、保険が約300兆円と、生活の安定に関わる蓄えが大半を占めている。
これを今後も手堅く守るか、時代の波に乗り、リスクを承知で運用するか。いずれを選択するにしても、生き残りをかけて顧客獲得を図る金融機関と付き合うには、自分の考えや立場、生活設計を明確なものにしておかなければならない。 また預金が全額保護されるのも、2001年までだ。その後は銀行が倒産すれば、1000万円までしか払い戻されない。自己責任とは、残酷なものなのだ。
◇◇
ここで一つ想起したいことがある。
1世同胞らは民族差別、蔑視がはびこる中で、相互扶助の理念の下に朝銀を設立した。その後も同胞らは、朝銀を自分自身の財産と認め、今日に至るまで、あらゆる弾圧、難局を力を合わせて乗り越え、その発展を支えて来た。
そして今、日本の金融界には厳しい弱肉強食の時代が訪れている。朝銀も早期是正措置の、自己資本率4%というハードルをクリアするために、ひとまず預金を増やさねばならない。
朝銀は相互扶助の理念を一層前面に押し出し、経営の健全性、透明性、バランスの良い発展を目指して信用度をより高め、魅力ある商品、サービス、情報を提供できる能力を備えようと努めている。
重要なのは、朝銀のスローガンにもあるように広範な同胞に「奉仕、密着」することだが、より必要とされているのは同胞の力だ。
朝鮮大学校経営学部の尹弼錫学部長は、「同胞商工人は金融再編成の大変な時代の到来を、重く受けとめるべき。自由化とは食われる自由をも意味する」と指摘する。自由な選択の結果に生じる「自己責任の徹底という意味を、深く理解することが大事」(尹学部長)なのだ。
朝銀が在日同胞の企業の発展と生活向上を担う民族金融機関として、その使命を果たすことなしに、今の同胞社会は考えられない。 朝銀が、この厳しい時代を生き延びられるかどうかは、朝銀自体の在り方とともに、在日同胞が一丸となり、民族金融機関を守り抜けるかどうかに掛かっている。(賢)