インタビュー/「4月の春親善芸術祭典」に参加した引田天功さん(マジシャン)に聞く
訪朝の感激、きちんと伝えたい/友好的で親切、芸術に深い理解
世界50ヵ国から700余人が参加し、4月8日から18日まで平壌で行われた第16回「4月の春親善芸術祭典」に世界的マジシャンである日本の引田天功さんが出演した。日本はもとより世界各地で年間300回の公演をこなすという引田さんに、初めて平壌を訪れた感想、公演の成果などについて聞いた。(嶺、文責編集部)
歴史に誇り
――初めて共和国を訪れた感想と一番印象的だったことは
感想を一言でいうと、朝鮮は歴史のある国だということだ。街並みや建物、人々の表情からも歴史を感じ、それを誇りに思っているということが伝わってきた。日本では残念ながら感じることのできないものだ。こうした歴史が、芸術に対する深い理解を生み、人の内面を豊かにするのだとも思えた。私はもちろん9人のスタッフも滞在中、一度もいやな思いをしたことがなかった。
私はよく海外公演に出かけるが、とくにアジアでは、「日本人は嫌いだ」という言葉を耳にする。日朝の歴史を考えると、今回もそういう言葉を聞くだろうと覚悟していたが、平壌では、会う人ごとに「訪朝を歓迎します」と言ってとても友好的で、私を1人のアーティストとして高く評価して頂いた。
とくに印象的だったのが、4月15日の太陽節行事の光景だ。金日成広場を隅々まで埋め尽くした人々が全員で踊る素晴らしい舞踏会だった。私の席は朝鮮の副総理の近くに設けてくれ、そこには中国、エジプトの賓客も列席していた。アーティストの私を賓客として丁重に扱ってくれ感謝の言葉につきる。
握手攻めに
――祭典はどうだったか
今まで色々な所で公演をしたが、こんなにビックなのは初めてだ。世界の人たちが一堂に会する芸術祭典を金日成主席が生前の頃から毎年行われてきていると聞いて驚いた。日程的にはハードだったが、私にとっては貴重な体験で、アーティストとして大変勉強になった。公演を観賞している観客もとても洗練されていて、素晴らしいものには惜しみない拍手を送るというマナーも忘れない。公演後、私はとくに若い人たちから握手ぜめにあった。個人的にも嬉しいが、エンターテイメントとして芸術を心得ているという点でも素晴らしいと思った。
人民俳優と会う
――共和国のアーティストとも会ったと聞いたが
4月17日、私が感謝の気持ちを込めて主催した答礼宴で人民俳優のチョ・チョンミさんという歌手にお会いした。人民俳優とは、朝鮮で人民にもっとも愛されている、素晴らしいアーティストに送られるという称号です。テーブルに座っていると、日本語のメモが回ってきてチョ・チョンミさんは、日本から帰国した声楽家で彼女にリクエストすればどうか、との内容が書かれていた。日本語だったので驚いたが、そのメモは朝鮮のマジシャン、キム・テクソンさんが、同席していた日本語のわかる朝鮮新報社の記者に頼んだものだった。私はそのメモのとおり、リクエストするとチョさんは気持ちよく応じ、歌を披露してくれた。その歌は今まで聞いたことがないような素晴らしい声量で、私にも大歌手であることが分かった。大変たのしい一時だった。
心をもらった
――天功さんの訪朝について一部のマスコミがわい曲して報道したが
今回日本を立つ前、やはり色々な報道を目にし、不安に陥ったこともあった。でも、感激して帰ってきた私は取材を受け、朝鮮で体験したことを事実だけ話した。私が話した内容がきちんと伝わらず、わい曲されたことには憤慨している。私は、素晴らしいものを素晴らしいと言い、良かったことを良かったと正直に話した。日本の朝鮮に対する報道ははじめから記事が組み立てられているという印象も受けた。あれだけ歓待を受けたのに、あんな報道をされては、朝鮮の人たちに申し訳ない。是非正したいという気持ちだ。
――今後の抱負は
今回は、金正日総書記にお会いすることはできなかった。
でも、訪朝の一番の成果は、朝鮮の人たちに心をもらったことだ。そして、関係者から「朝・日国交正常化のために共に努力しましょう」という言葉を聞いて、私自身は自分のことを、ただのアーティストだと思っているがこの訪朝をきっかけに、日朝友好のためにできる限りのことをしたいと思っている。また、招待されれば是非行きたい。今後は同時に在日朝鮮人との交流も深めていきたい。