「書簡」以後――組織の姿(上)
生活密着、奉仕掲げて/同胞の中でニーズ把握
1995年5月24日、結成40周年を迎える総聯と在日同胞に、金正日総書記は「在日朝鮮人運動を新たな高い段階へと発展させるために」と題する書簡を送った。その日から総聯は、21世紀の運動の方向性を示したこの書簡を実践するために全力を注いできた。運動のターニングポイントとなった「歴史的書簡」以後、総聯は何をしてきたのか、どこへ向かおうとしているのか。(東)
「将来に明るい展望」
書簡は在日朝鮮人運動の性格を @在日同胞自身の民族的権利と利益を擁護する民族的運動 A在日同胞が祖国と民族に寄与する愛国的運動――という両側面を持つ、民族的、愛国的海外僑胞運動だと定式化した。
また、在日朝鮮人運動の基本的使命はまず、同胞の民族的権利の擁護だと定義。同胞の民主主義的民族権利と利益を守り、民族教育を発展させることを最優先課題とした。課題遂行のため、組織を固めてその役割を向上させ、活動家の活動方法・スタイルを改善すべきだと指摘。彼らがつねに同胞大衆の中に入り、依拠するよう強く求めた。
「書簡を貫徹すれば総聯の将来に明るい展望を切り開いていけると確信した」(岐阜県青商会の李賢植直前会長)。
支部拠点に原点へ
書簡が送られて4ヵ月後に開かれた総聯第17回全体大会では、結成以来初めての綱領改定と、幹部の若返りが行われた。
また中央委員会活動総括報告の今後の展望部分では、92年の16全大会の報告とは異なり、まず最初に同胞大衆に関する問題が取り上げられた。そこでは支部、分会の強化が強調され、大会後、すぐに多数の人材が配置されるなどの支部の強化策が図られた。
その後、96年3月の中央委員会第17期第2回会議拡大会議では若い世代をはじめとした同胞大衆の問題が強調され、97年1月の第3回会議拡大会議ではそのための方途として支部強化の問題が指摘された。さらに同年9月の第4回会議は、同胞社会で民族性を守り、同胞たちの生活と権利を守る問題が主なテーマだった。今年1月に開かれた第5回会議では、5月22、23日の18全大会を成果的に迎えるための問題が話し合われた。
総書記の書簡には、「総聯は広範な大衆に深く根をおろし、大衆の積極的な支持と信頼を得る時にのみ、不敗の威力を身につけることができる」という指摘があり、17全大会をはじめ第2、3、4回の会議報告で引用されている。ただし、これを実現するために最も重要だとされた課題が17全大会では「同胞を教育・啓蒙する」、第2回会議では「同胞の中に入る」、第3回会議では「総聯の活動を転換する」と変わっていった。
第3回会議決定を受け、97年5月から行われたのが「同胞訪問、奉仕、団結 3ヵ月運動」だ。この運動は、所属機関や担当部署、役職の上下にかかわらず、すべての活動家が同胞の中に入るよう促したものだ、この間、総聯中央でも幹部以下、全活動家が週に数回、もしくは月に何週かは居住地域の支部や分会に出かけて同胞の家を訪ね、奉仕活動をすることが日常化。それは今も続いている。
ある支部委員長は、「書簡の要求、現実の要求に照らして、『まず大衆の中に入ることから』を実践した『3ヵ月運動』は時宜を得た運動だった。原点に立ち返り、新しい芽を見つけることができた」と語る。
「3ヵ月運動」の経験と成果を踏まえて開かれた同年9月の第4回会議は、より今日的な視点に立った内容となった。
積極的なアプローチ
在日朝鮮社会科学者協会研究グループの調査(97年9月)によると、毎年1万人近くが「帰化」しており、95年に結婚した同胞のうち、同胞どうしは28.3%に過ぎず、日本人との結婚が71%を占めている。一方、同胞の総数のうち1、2世が占める比率は45.18%で、3、4世は54.82%。職業構成においては、商工人とサラリーマンの二極化現象が起きている。同胞有職者のうち商工人の比率は今でも6割程を占めるが、今や3人に1人はサラリーマンとなった(同調査による)。
こうした環境を背景に、第4回会議は民族性を守る問題を前面に掲げ、高齢者、就職、結婚などの生活に密着した問題でいっそう同胞に奉仕することを強く打ち出した。
多様化する同胞社会の現状は複雑で、同胞らが抱える生活上の問題は多岐に渡るが、高齢者、就職、結婚などの問題は長年培ってきた組織のネットワークが生きる分野だ。活動家が同胞の声に耳を傾け、その生活実態を把握、理解して政策を立て、それを誠実に実行するというプロセスは、総聯のような大衆組織にとって欠かせない。「3ヵ月運動」を通じて、このプロセスの大切さを再確認したがゆえに、積極的なアプローチを示した第4回会議報告はその前提として、「これまでいかに、同胞の中に入っていなかったかを振り返るに至った」と反省の弁を述べているのだ。
「歴史的書簡」後、総聯は、改めて運動の主体である在日同胞の置かれた状況に真剣に目を向ける作業を一つ一つ積み重ねてきたと言っていいだろう。こうして18全大会を前に、運動を発展させるための土台を築いてきたのだ。