「在日朝鮮人・人権セミナー」が報告会/国連子どもの権利委員会が日本政府に勧告
今年、10周年を迎えた「在日朝鮮人・人権セミナー」(実行委員長=床井茂弁護士)主催による、国連子どもの権利委員会での日本政府報告書審査と勧告に関する報告会が26日、東京・飯田橋で開かれた。同委員会がさる5日、日本政府が提出した報告書をもとに「子どもの権利条約」の順守状況を調査した結果、朝鮮人を含むマイノリティの子どもへの差別的な取り扱いについて全面的に調査し、解消するよう勧告したことを受けて開かれたもの。
世界の常識と合致せず
国連子どもの権利委員会の勧告は、朝鮮学校への制度的差別を集中的に論議したうえで出されたもので、在日同胞の民族教育の正当性とそれを差別する日本政府の不当性が世界に認められた形となり、同胞らの注目を集めている。
報告会では、今回、ジュネーブの欧州本部で開かれた委員会を傍聴した日本のNGO、子どもの人権連の平野裕二氏と、総聯代表団の一員として現地を訪れた朝鮮人強制連行真相調査団の洪祥進事務局長がそれぞれ報告した。
同委員会の傍聴を続けてきた平野氏は、朝鮮学校への差別問題に関する審査での詳細なやりとりについて述べながら、日本政府は在日朝鮮人をマイノリティと認めておらず、それは世界の常識と合致しないと指摘。子どもの権利条約は第30条でマイノリティの権利を尊重しており、そこには当然日本における在日同胞も含まれていると強調した。さらに、文部省の代表が朝鮮学校への制度的差別の根拠として「日本の学校とスタンダード(基準)が違う」ことをあげたことから、文部省の指導要領などいわゆるスタンダード自体を緩やかにしていく必要もあると指摘した。
また日本の審査結果として採択された総括所見に、「高等教育機関へのアクセスにおける不平等が朝鮮人の子供たちに影響を与えていること」として、国立大学受験資格差別に対する懸念がはっきり指摘されている意義について言及。勧告で「朝鮮人およびアイヌを含むマイノリティの子どもの差別的な取り扱いを、それがいつどこで生じようとも全面的に調査し、かつ解消するように」とされた差別の中身に、国立大学受験資格問題をはじめ朝鮮学校差別問題が含まれているのは当然の解釈だと強調した。
根元は過去の未清算
洪事務局長は、民族教育差別問題の根源は日本が戦後、植民地統治についての総括をしていないことにあると指摘した。そして、今回の勧告には、朝鮮人として日本で堂々と生きることを追求してきた在日同胞の主張の正当性が反映されており、世界ではこの主張がスタンダードで、それを制限する日本の方がおかしいということに改めて気づいたと強調。日本政府の子どもの権利条約に対する認識を改めるためにも、日本社会にもっと訴える必要があると述べた。
一方、洪事務局長らとともに総聯代表として現地を訪れていた神奈川朝鮮中高級学校の張末麗教員も、子どもの権利委員会と同時期に開催されていた国連人権委員会少数者保護作業部会に参加した感想について語った。日本政府の民族教育差別政策について30分ほど時間をもらって発言したところ、「重大な人権侵害だ」などと、大変大きな反響があったという。
大学受験資格突破口に
子どもの権利委員会の勧告について洪事務局長は、「これだけの内容の物が出たのだから、私たちはこれを弾みに差別是正運動をより積極的に進めていかなくてはならない」と述べた。
平野氏も、NGOの立場からフォローアップの重要性について指摘し、国際人権規約などの前例から日本政府はこうした国連の勧告について誠実に受け止めない傾向があるため、市民の側が何もしなければ何も変わらないと強調。広く知らせるとともに、NGOとしては具体的な政策提言を行っていきたいと述べた。また、とくに朝鮮学校問題と関連しては、すぐにでも門戸開放が可能な国立大学受験資格問題を突破口にするため、文部省と大学当局、世論への働きかけを集中的に強化するとともに、朝鮮学校の実態自体を広く知らせていくべきだ、などと提案した。