座談会//開設から8ヵ月「同胞法律・生活センター」(上)
同胞のための同胞専門家による常設的な「同胞法律・生活センター」が東京・上野で業務を開始して8ヵ月。在日本朝鮮人人権協会に所属する各種有資格者が、ボランティアで無料相談にあたってきた。相談員の中から洪正秀(弁護士)、金奉吉(司法書士)、呉圭哲(税理士)、崔賢吉(行政書士)の各氏に話し合ってもらった。司会は同センターの殷宗基所長。
幅広い層が利用/相続、国籍、結婚・離婚、在留資格など
――団体所属や思想信条、国籍を問わず、すべての同胞を対象にしているが、実際に相談に来るのはどのような層が多いか。
洪 同胞でもある程度の規模の企業を経営している人は顧問の専門家がいるので来る必要がない。身近に相談する相手がいない一般の同胞が大勢来ている。また最近、南から来たいわゆるニューカマーの人がビザなどの相談に来る。とにかく、当初予想したよりも広い範囲の人が来ている。
崔 年齢層も様々だが、女性が比較的多い。特徴としては、たいていここに来るまでに数ヵ所を回っているようだ。
金 40〜50代くらいの第一線で頑張っている人が多いようだ。また私が相談を受けた人は、組織や団体とはまったく関係のない人がほとんど。ポスターを見たり人づてで聞いて来たという人たちだった。
――相談業務を通じて感じていること。また、これまでに対応したうち、同胞特有の特徴的な事例があれば。
呉 共和国にいる子供たちへの財産分与をどうするかという、親としてはとても切実なケースがあった。こうした同胞特有の件は、日本人では対応が難しい。また若い歯科技工士の人から独立に際してのアドバイスを求められたことがあるが、ブレーンを持っていない人たちにとって、このような相談の場があることはとてもいいことだと思った。
金 例えば相続問題でも、日本の司法書士や弁護士に相談しても解決できないのでここに来る。でも実際に話を聞いてみると、問題の特殊性ゆえ日本の専門家がよく分からないだけで、特に難しい問題ではないことが多い。
崔 同胞の相談所なので気持ちがほぐれる、話が分かりやすいなどとよく言われる。日本の専門家は、法律用語などを知っていて当然という態度で接する人が多いらしい。しかし同胞、とくに一定の年齢以上の人には法律用語には馴染みが薄い。また日本人は在日同胞の社会的背景をよく理解しておらず、とくに家族、親族が南北朝鮮、日本に分散している状態などいちいち説明するのは大変だ。われわれだと同じ相談でも背景を知っているので話が早い。本当に助かる、と評価されているようだ。
洪 親族が共和国や南朝鮮にいる場合の財産相続について日本の弁護士に聞いても、公正証書ができるかどうかも分からないと言うらしい。私たちからすれば、公正証書ができるのは当たり前のことだが、日本の弁護士にはそれすら知らない人もいる。複雑な家族関係が多いのも同胞社会では普通のことだが、日本の弁護士にとっては普通でない。
――この間の相談内容をまとめてみると、相続、国籍、結婚・離婚、在留資格、資格取得などの問題が多いが。
金 人が亡くなり、残した財産を相続する問題が生じて登記する場合、法務局は、在日外国人にも日本人と同様の書類(例えば戸籍謄本など)を持って来るよう求める場合があるが、これは法務局の人たちが認識不足なだけで、実は必ずしもその必要はない。しかし同胞たちは、窓口で例えば戸籍謄本を持ってこいと言われると、戸籍はないから作らなくてはいけないのではと思ってしまう。登記のためにそこまでやらなくてはいけないのかと相談に来る同胞が結構いる。そんなことをする必要はない、それを補うことはいくらでもできると具体的にアドバイスしたらとても喜んだ。
こうしたケースは、東京よりも地方の方が多いようだ。
崔 しかし、東京でやっているという事例さえ分かれば、地方でも簡単に通ることがある。ある件で、日本の司法書士が登記が通らないと言うから説明したら、彼は法務局に電話で問い合わせて結局できました、と。もちろん、相続人の確定は非常に重要で、確認しようとするのは当然のことだが、ただその証拠として、外国人の場合にもあくまで戸籍を求めるのは不当だ。
日本の役所はすぐ戸籍、戸籍と言うが、われわれ在日同胞の場合は外国人登録原票というものがあり、役所も実は全部詳しく分かっている。原票には20項もの事項が登録されており、日本の戸籍よりも情報量は多い。戸籍の代わりはいくらでもあると、同胞たちにもっと知らせなくては。
――同胞と日本人の夫婦が出生届を出しに行くと日本の戸籍に処理されてしまう。民族の国籍にしたいと言っても、窓口の人はどうにもなりませんと答えるらしいが。
洪 夫婦のどちらかが日本人であれば日本の国籍に入ってしまうが、これは2重国籍状態のわけで、法務局へ届け出て日本国籍を離脱すれば民族の国籍に入ることができる。われわれにとっては初歩の初歩だが、分かっている役所の戸籍職員はほぼ皆無だ。
昨年、父朝鮮人、母日本人の子供がこうした手続きを取ったにもかかわらず、窓口で受理されなかったケースがあったが、総聯の関係者が役所へ同行し、役所の方で東京に電話確認して可能ということが分かり、結局受理された。
――相続に関する相談例として、役所の窓口で、共和国にいる人については、共和国に印鑑証明制度もないだろうし、住民票などもくれないだろうから、相続から排除して日本にいる人だけでやったらどうかと言われたというのもあったが。
金 まず、印鑑証明も居住証明も取れる。仮にそうしたケースがあったとして、排除するなんてとんでもない話だ。少なくとも相続人の1人が存在することを知りながら、単に国交のない共和国にいるということだけで排除してしまうのは法律以前の問題だろう。
【同胞法律・生活センター】
東京都台東区東上野2―14―10カナオカビル4F
TEL 03−5818−5424
FAX 03−5818−5429
相談は午後1時半〜4時半で、月(民事、刑事、人権侵害)、火(登記、相続問題)、水(会社設立、飲食・風俗営業等申請、一般的相続、在留資格、国籍、結婚)、木(高齢者・福祉、税務問題)、金(年金、保険、就職)など。電話、ファクスによる相談は随時受け付ける。