座談会//開設から8ヵ月「同胞法律・生活センター」(下)
いまだ根深い差別/権利意識向上へ啓蒙活動も
――最近、在日同胞の間で資格取得へのニーズが高まっているが。
呉 税理士試験の受験資格のうちの一つは、大学・短大などで法律または経済学を修めた者というものだが、朝鮮大学校の場合は認められない。
洪 司法試験の場合、大学の一般教養課程を修了していることが一次試験免除の条件だが、やはり朝鮮大学校にはその資格がない。
これをクリアするためにも重要なのは、朝鮮高級学校生の国立大学受験資格の問題だ。これは、今残っている制度的な差別の中で一番大きいものではないか。この壁をどうにかして突破したい。
崔 知識と能力がなくては同胞の生活を守ることはできない。司法関係の資格取得を目指す若い同胞が増えているのはいいことだ。
――これまで相談を受けてきた同胞の反応は。
金 先ほどのような戸籍の問題など同胞特有のケースの場合は、センターに来れば解決の道を得られるわけで、納得して喜んで帰っていく人が多い。
洪 相談に来る人はいい結果を期待してくる。ところが実際に話を聞いてみると、もうどうしようもできないこともある。この場合、できませんという最後の引導を渡すのも私たちの仕事なので、がっくりして帰るケースもある。ただ、3分の1から半数近く、日本人の弁護士がまったく知らないこと、簡単なことだけど私が知っている知識を動員していい結果が出た時は、大変喜んでくれる。
同胞特有の問題でなくても、例えば窃盗などの刑事事件を起こした場合、取り調べの時に「お前朝鮮人だろう」とひとこと言われ、精神的に大きなショックを受けるケースがある。こうしたケースをフォローできるのは、われわれ同胞の弁護士しかいない。
――相談業務を通じて見えてきた同胞社会の現状について。
洪 私が朝鮮学校に行っていた頃と比べると、定住化というか、悪く言うと日本人化している。しかし、朝鮮人としての特性は決してなくなっていない。差別はまだまだ根深く、こうした部分をケアできるようなセンターはここしかないと思うので、もっともっと発展させていきたいと。同胞たちが民族性というか、自分の出自、ルーツを明らかにしながら楽しく生活するために少しでも役に立てれば、と思っている。
崔 在日同胞に対する差別が、目に見えない形で、とくに役所には厳然として残っている事実を改めて痛感した。例えば、決まりだからといって、日本人には必要でない事柄を平気で要求する。
しかし、若い同胞たちは自分たちが差別されていることに気づいていない。過去より差別が減ったのだからこれでいい、と感じているようにも見える。外国人だから仕方ないと思いがちだが、一般的な外国人と植民地支配によって「在日」しているという歴史的経緯のある在日同胞は違う。権利意識自体が、飼い慣らされてしまっている面も少なくない。
――センター設立の目的は、相談業務を通じて同胞の権利を擁護し、同胞の法的地位の向上に寄与しようというものだが、センターとしての今後の課題と、相談員としての抱負を。
洪 権利意識を向上させるには、自分の置かれた立場をよく知ることが大切だ。表面上は日本人と同じように暮らしているようだが、気づかないうちに差別されているということをもっと知らせる必要がある。こうした啓蒙活動はもっと幅広く行っていくべきだろう。例えば、外国人登録証の携帯を義務づけられる16歳になった朝高生に、国籍とは何か、在留資格とは何かなどを解説したパンフレットを配布するのはどうか。私でよければ講義に出向いてもいい。
確か名古屋にも相談所ができると聞いているが、こういうものを広げていくことと、マスコミなどを通じてもっと知らせること。まだまだこうした場の存在を知らなくて諦めている人も多いだろう。
崔 個々の相談に対応する相談員は1人でも、問題の解決には集団で取り組めるというセンターのメリットをアピールすべきでは。様々な有資格者が協力態勢を組んでいるからこそ複雑な問題にも対処できるというセンターの力を強調すべきだと思う。
呉 トラブルはある日突然発生する。そんな時、頭の隅に、こうした生活相談の場があるとインプットされていたら心強いだろう。いつも何気なく目にしていて何かあった時にすぐ利用できるように、もっと効果的な宣伝が必要だ。私としても長期的に考え、いつ何が起きてもいいよう常に誠実に対応していきたい。
金 いつも受ける相談内容自体はそう難しいものではないが、そういう小さなことで悩んでいるのが現実なわけで、ひとつひとつ丁寧にフォローしていきたいと思っている。
普段、顧問先ではない一般の人の相談に乗る機会はないので、ここでの相談業務は刺激にもなり、自分自身の能力の向上の点から言っても大変貴重な場を与えられているものと思っている。これからも一生懸命やっていきたい。
洪 センターに来るのは月に1回ほどだが、正直言ってつらいなあと思う時もある。ただ、来ると、必ず満足感を持って帰れる。
普段の業務では儲けを優先してしまいがち。ボランティアで同胞の相談に乗ることは、自分自身を見直すためにも大切な時間となっている。センターだけでなく、同胞のために役立つ仕事があればこれからもどんどんやっていきたい。(司会は殷宗基所長)
【同胞法律・生活センター】
東京都台東区東上野2―14―10カナオカビル4F
TEL 03−5818−5424
FAX 03−5818−5429
相談は午後1時半〜4時半で、月(民事、刑事、人権侵害)、火(登記、相続問題)、水(会社設立、飲食・風俗営業等申請、一般的相続、在留資格、国籍、結婚)、木(高齢者・福祉、税務問題)、金(年金、保険、就職)など。電話、ファクスによる相談は随時受け付ける。