国連人権小委、特別報告官の報告書を決議
国連人権委員会の差別防止・少数者保護小委員会(差別小委)でゲイ・マクドガル特別報告官(米国)の「従軍慰安婦」問題を取り上げた「武力紛争時における組織的強姦、性奴隷及び奴隷類似慣行」と題する最終報告書を歓迎する決議が21日、採択された。決議は日本政府の法的責任を追及するとの同報告書を「最大の関心を持って歓迎する」としながら、日本政府に国家賠償を求めるとともに、性暴力への効果的な訴追のためのガイドラインを作成するための国連専門家会議を来年開くことなどを求めた。
日本政府は国家賠償を/法的責任を追及
報告書は62ページからなり、本文37ページ、付属書25ページで構成。本文では、強姦、奴隷、性奴隷などの定義付けを行い、これらに関する国際法の体系を総合的にまとめたうえで、犯罪者の処罰や被害者の救済方法を論じている。
また、付属書では法的責任を否定する日本政府の見解を紹介したうえで、「慰安所」政策の実態と本質を論じながら日本政府の見解を批判し、国際慣習法としての奴隷の禁止と奴隷取り引きの禁止、戦争犯罪と人道に対する罪の意義を検討し、法的責任の問題を詳細に分析している。
さらに結論として、第2次世界大戦中の「慰安所」において虐待された20万人以上の女性たちの強姦と奴隷化について、謝罪と償いをするための手段を講じなければならないとした。 そして日本政府の「国民基金」は国家責任を果たすものではないとしたうえで、被害者に法的賠償を行うための機構を確立することなどを勧告した。
【解説】マクドガル報告書は、日本の法的責任、国家賠償の義務を強調した内容としては、以前のクマラスワミ報告書を上回るさらに踏み込んだものとなっている。日本政府は今回の差別小委での勧告を「日本への名指しがない」などとして受け入れを拒否する姿勢を取っている。しかし、クマラスワミ勧告同様「従軍慰安婦」問題は日本の国家犯罪であるという共通の認識はできあがっており、今後どのように国家賠償を行っていくかという問題が、現在論議されているのであって、「日本への名指し」は問題ではないと言える。さらに、「過去の問題ではなく現在の問題に限定した決議である」などと反論している点においても、「第2次大戦中の問題は除く」と明記しておらず、生存する被害者にとっては現在の問題であり、国際法上では現在も進行中の問題だと言える。今回、小委員会に参加したNGOからは、いずれもマクドガル報告書を歓迎し、日本政府の法的責任を追及していた。
国連での決議に強制力はないが、論議の流れは日本の戦争犯罪を一つ一つ明らかにし、その賠償においての有効な方法と、その法的根拠などが論じられているのであって、加害者である日本は言い逃れできない状況だ。(嶺)